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afterコロナのバックオフィスは「100名規模を“1人”が支える」!? 導入実績10万社「ジョブカン」が見据える未来のHR

         

勤怠管理・シフト管理システム「ジョブカン」の業績が堅調だ。2010年5月に「ジョブカン勤怠管理」をリリースしてから10年。ラインナップには「ジョブカンワークフロー」「ジョブカン経費精算」「ジョブカン採用管理」「ジョブカン労務管理」「ジョブカン給与計算」「ジョブカンBPO」が加わり、現行7シリーズを展開する。今後、「ジョブカンApps」もリリース予定だ。シリーズ累計は今月中に「導入実績10万社」を突破する勢いだ。

新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の拡大により、企業での働き方やバックオフィス業務が見直され、HR Techの重要性が認識されつつある。成長するHR Techの風雲児は「今」というこの時代をどのように見据えているのか。開発・運営元である株式会社Donuts執行役員・ジョブカン統括責任者の石山瑞樹氏に「HR Tech領域におけるSaaSビジネスの未来」について伺った。

コロナの時流に重なったSaaSサービス「ジョブカン」

「ジョブカン」を開発・運営するのは、株式会社Donuts。2007年に2月に設立された同社はクラウドサービス事業「ジョブカン」を展開する他、医療事業(クラウド型電子カルテ「CLIUS(クリアス)」)、動画・ライブ配信事業(スマホアプリ「ミクチャ」)、ゲーム事業なども幅広く展開する。

ジョブカンシリーズは、「勤怠管理」をはじめ、「ワークフロー」「経費精算」「採用管理」「労務管理」「給与計算」そして「BPO」など、まさにバックオフィス全般を支援するサービスラインナップとなっている。

現在の社員数は350名(契約社員含)ほどだが、2020年は事業拡大のため「中途人材100名採用」を決行。ジョブカンのインサイドセールス募集にも多くの応募があるという。

2020年はコロナ禍をきっかけとしながら、国内企業の働き方改革・DX変革がいっきに加速した。「数年単位で起こるパラダイムシフトが、わずか数カ月で起こった」とも言われ、テレワーク」「脱ハンコ文化」「ジョブ型雇用」「テレ就活」など、変化を象徴するキーワードが数多く生まれた。

シリーズ第1弾「ジョブカン勤怠管理」では、タイムカード打刻にICカード・GPS・LINE・Slackなどが対応。この他「ジョブカンワークフロー」でも、Web完結型クラウド契約サービス「クラウドサイン」と連携し、稟議申請から契約締結まで完全オンライン化できるようになった。ジョブカンシリーズはまさしく今の時流に乗ったSaaS型総合業務サービスと言えるだろう。

「当社のシリーズ展開および各種プロダクト開発は、以前から働き方改革を強く意識しており、今回はたまたまコロナの時流と重なりました」——。そう話すのは、ジョブカン統括責任者を務める同社執行役員・石山瑞樹氏。実際にコロナ以降もユーザー数の大きな減少は起こっていないという。

「ユーザー様には飲食店経営などコロナ禍で苦境に立たされているSMB経営者が大勢いらっしゃいますが、他方でテレワークやペーパーレス化を進めようとする企業ではこれをきっかけに、製品を新規導入していただいています。直近のシリーズである『ジョブカンBPO』にしても、DX推進による業務効率化をきっかけにアウトソーシングに踏み出す企業はこれからもっと増えると予測します。われわれはそうした企業のバックオフィスにある業務全般を、総合的にカバーしていきたい」という言葉からもそれが分かる。

SaaS系スタートアップの成功モデル「T2D3」を超越させたジョブカンの当たり前

石山氏は人材紹介会社、スポーツ系ベンチャーを経て、2012年3月にDonutsへ入社した。Donutsが初めてのIT企業だった。入社間もなく「ジョブカン勤怠管理」のサービス責任者を担当したが、当時のジョブカンはリリースから2年弱。当時は「導入実績10社程度」「競合30社の最下位」「1カ月に1社でも契約できれば万々歳」の状態だった。

しかし、石山氏が入社した2012年からはいずれも前年比で「5倍→5倍→5倍→3倍→3倍→2倍→2倍→2倍」と好調に推移。成功を収めるSaaS系スタートアップの成功モデルとも言われるT2D3(Triple→Triple→Double→Double→Double)以上の伸びを示したということになる。

決して大きな投資をすることなく大きなグロースハックを成し遂げられた——。その要因について石山氏は「価格帯やプラン、メニュー、ユーザーへのアプローチ方法など、多くの点を大きく見直したことが大きかった」と話すが、それらの根本には以下の3点の要因がうかがえる。

1.出自から“IT企業”であったこと

かつて勤怠管理の市場は「上から会計→給与→勤怠の順で並ぶ逆ピラミッド型」をしており、上の階層ほど市場規模は大きかったという。しかし同時に上層・中層にある会計・給与には「ある種の定型化されたルール・仕組み」があるのに対し、勤怠管理は「100社100様」。企業によってやり方が異なり、かつ、小さな市場規模のわりに開発工数が掛かることから、革新的なIT企業には参入しづらい面があった。

2.徹底して“SMBのお客様”へ寄り添ったこと

エンタープライズ向け製品のベンダーからしても、自社開発のプロダクトをSMB向けに開発し直したりスケールダウンさせたりするのは至難の業だった。しかしDonutsでは「ジョブカン勤怠管理」のリリース当初から「3名規模の新規契約だろうが1万名規模の新規契約だろうが、営業担当者のKGI(重要目標達成指標)からすれば同じ“1件”」であるとの認識で「あくまでSMB向け」という視点を徹底させた。

3.“独立採算的”な発想の下でつくった組織

ジョブカンシリーズの開発チームは一部で連携しながらも、ジョブカン内では“縦割り”組織になっているという。開発・営業に関しても基本的にはそれぞれが独立した状態で、ある意味「ランチェスター戦略」とは逆の発想だ。アップセル戦略を採る必要もなく、チームごとに独立した開発・市場拡大で各シリーズをアップデートしていった。

「特に『勤怠管理』は2019年に開始された『年5日の有給休暇義務化』が象徴するように、法改正などに合わせて“入れなければならなくなる”サービスでした。そういう意味であれば、他の業務効率化SaaSとは一線を画すことができるかもしれない、と。実際、勤怠管理の支払方法を見てみると、コンビニ決済の企業が2割くらいいらっしゃいます。われわれはそうしたITリテラシーが必ずしも高くないSMB企業様を大事にしてきました。そこでの成功体験をきっかけに、それまであまりSaaSに乗り気でなかったお客様に、他のジョブカンシリーズを導入いただくケースもあります」

SaaSに高まる期待と、混迷の様相

その市場形態から「IT企業やエンタープライズ向けベンダーが新規参入しづらかった」という「勤怠管理」の分野だが、近年はその様相が少し変わりつつある。その要因が「HR Tech」の台頭だ。

HR Techナビのレポートによれば、SaaS 市場規模は年平均で日本国内約12%、海外約16%で成長を続け、50以上のカテゴリー数百を超えるサービス(2019年4月22日現在)というデータもあるほど多様化・細分化が進んでいる。

「社員の入社から退職までを一貫して管理していくHR Techの文脈から『勤怠』に注目が集まり、最近はIT領域の人材系企業も多く参入してきています。当社もそんな“おいしい市場”があることがばれないよう、昔はあまり大々的なプロモーションは行わないようにしていましたが、最近はもう逃れようがない(笑)。テレビCMなどでも積極的に製品を打ち出しています。とはいえ、後発組で当社サービス脅威を与えるような存在は、まだないと自負しています」(石山氏)

Human Resource×Technologyの造語であるHR Techは、人事評価・人材育成・人材採用など、人事領域全般の業務改善ソリューションを指す言葉だが、近年は競合サービスが続々とリリースされ、カテゴリーも細分化。多くのSaaS市場と同様、業界マップはまさしくカオスの状態だ。企業のバックオフィスからすれば、乱立するサービスを機能ごとに使い分けるのは容易ではなく、企業内のデータ連携ができず部分最適状態になってしまう“サイロ化”も引き起こしかねない。

そうした課題に対しジョブカンでは、シリーズ同士のデータ統合、あるいは他社APIとの連携も積極的に取り入れている。ジョブカンによるバックオフィス業務はすでに“まるごと一気通貫の横串状態”で管理できるようになっている。

そうしたサイロ化を解消する「ジョブカン」データ連携は、バックオフィスをどんな世界へと誘ってくれるのだろうか。石山氏はそれを「100名規模の企業を、1名のバックオフィスがシステムで回している世界」と表現する。

HRデータはこの先どのように取り扱われるべきか

石山氏は続ける。

「一口にバックオフィスといっても、今のビジネスでは労務・人事・総務・経理などの役割に分かれ、企業は各領域の専門知識を持った人材を配置しなければなりません。しかしやがてそうした各分野の専門性は必要なくなると思います。例えば、従業員がジョブカン上のアンケートに答えるだけで年末調整の書類ができてしまったり、あるいは採用に適したタイミングをジョブカンがサジェストしてくれたり……」

そんな世界が到来すれば、ITリテラシーがない人材——極端に言えばアルバイトスタッフ——が1人でもいれば、組織のバックオフィスは機能していく、そんなイメージが湧いてくる。

「きっと今のZoomがそうだと思うんです。『ウェブ会議システムの導入は面倒かも』と思っていたけれど、今はパソコンに詳しくない人でも、気軽にオンラインで会議や飲み会をしています。そうした『いつの間にか当たり前のようにできるようになった』という世界を、バックオフィスにもたらしたい」

理想とする世界の到来は「だいたい3年後」と予測する石山氏。AIやリーガルTechの台頭により変わろうとしている法務の世界と同様、バックオフィス業務もまた、今まさに再定義される時に来ているといえるだろう。

そうした中、石山氏が特に関心を寄せているのが“データ”の行く末だ。最後に「HRや働き方にまつわるデータの在り方」について、次のような展望を語った。

Slackなどのコミュニケーションアプリにも言えることですが、働き方のデータを『企業が持つのか』あるいは『個人が持つのか』という議論は常に気になっています。ジョブカンで言うなら、システムは企業が入れて、社員にアカウントが付与される。企業のシステムと個人のアプリがアカウントで紐付けされたら、退職・転職したとき、個人はそのデータを“持っていける”のか……。もしかしたら、それらのデータが履歴書・職務経歴書のような感覚で活用される時代も来る。そうなれば、個人の働き方はこれからいっそう、大きく見直されることになるでしょう」

企業がHRデータをいかに取り扱うのか。そんな議論が起こる「今」というこの時は、生き残れる企業と生き残れない企業の分水嶺なのかもしれない。

お話をお伺いしたDataLovers:石山 瑞樹(いしやま みずき)さん
株式会社Donuts執行役員・ジョブカン統括責任者

2012年に株式会社Donutsに入社し「ジョブカン勤怠管理」のサービス責任者に就任。マーケティング・制作ディレクション・営業支援・ブランディング構築など、多岐にわたる業務を兼任し、クラウド勤怠管理システムシェアナンバーワンのポジションにまで成長させる。その後、ジョブカンのシリーズとしてワークフロー、経費精算、採用管理、労務管理、給与計算をリリース。

 

(取材・TEXT:JBPRESS+田口/稲垣/安田  PHOTO:Inoue Syuhei 企画・編集:野島光太郎)

 
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