データを手軽に分析できる便利なBIツールやデータを取り扱うための情報がたくさんある昨今、きちんとデータを集めてまとめているのに、中々改善されないな、結果につながらないな、と悩んでいる方は多いのではないでしょうか?
そんな方におすすめなのが、以前データのじかんでも取材させていただいたことがある河本薫教授の著書『データ分析・AIを実務に活かす データドリブン思考』です。
本書では、日本の企業や組織でデータ活用に関わるビジネスパーソンに向けて、有効なデータ活用のためのどのような変革が必要なのか、そしてその変革をどのように起こしていくのか、をわかりやすく、高い熱意で解説。バリバリデータ活用をしている、というデータサイエンティストはもちろん、データ分析の初学者にとっても、非常に有効なフレームワークが紹介されています。
今回はそんなキーワードと魅力を紹介していきます。
本書の最大の特徴は日本企業におけるデータ活用の現場での課題が起点になっている、という点です。著者である河本薫教授はかつて大阪ガスのビジネスアナリシスセンター所長としてデータ分析型組織を率い、現在は滋賀大学データサイエンス学部教授やデータサイエンス教育研究センターで副センター長をつとめるデータ活用の第一人者です。
実際にデータ活用の現場に触れ、データドリブンな組織を構築してきた河本教授が指摘する最大の課題は「データ分析には成功するが、現場業務に活用されるまで至らない」ということです。
現在は、データ分析のための人材育成や、便利なデータ収集・分析ツールにより、さまざまな現場でデータ活用が推進されています。一方で、どれだけデータを集めても成果につながらなければ意味はありません。
しかし、実際の現場では、成果につながる意思決定とデータ分析の間に大きな壁があり、マネジメント層がデータの価値をうまく理解できなかったり、データ分析のチームの目的が、「データを分析すること」になり手段が目的化してしまっていたり、ということが少なくありません。
では、これらを解消するためには、何をどのように改善すれば良いのでしょうか?
本書において最も重要なキーワードが「意思決定プロセス」です。
データ分析を取り入れる場合、プロダクトやサービスの課題を解消するために、該当箇所をデータと照らし合わせて直接改善する、という手法をとりがちですが、データをきちんと成果につなげるためにはこの手法では不十分であると本書は指摘します。
データ分析をビジネス成果につなげるためには、目の前のプロダクトやサービスだけではなく、その意思決定プロセスまで遡り、課題を抽出する必要があるのです。また、そのためには暗黙知として属人化しがちな意思決定プロセスを形式知として棚卸ししなくてはなりません。
本書では、「意思決定プロセス」を「判断と決定の生産方法」だと説明しています。問題を前に「判断と決定がまずいから問題が生じる」とするのではなく「判断と決定の生産のやり方がまずいから問題が生じる」と捉えることが有効なデータ活用の第一歩になるといいます。
一方で、単に「意思決定プロセス」を改善する、といっても中々難しいもの。そこで、本書では、「意思決定プロセス」を以下の6つに類型化し、型ごとのデータ分析の役割、「意思決定プロセス」の改善方法や生じがちな課題に触れています。
意思決定プロセスの種類 | データ分析の役割 |
A.反復選択型の意思決定プロセス | 選択肢を採用した場合における帰結の予測 |
B.体制選択型の意思決定プロセス | 合理的な選択を行うための判断材料 |
C.原因特定型の意思決定プロセス | 原因の候補と結果の関連性 |
D.計画策定型の意思決定プロセス | 最適な計画の発見 |
E.仮説試行型の意思決定プロセス | 購買する顧客増の仮設派遣と検証 |
F.経営判断型の意思決定プロセス | 経営者の思考バイアスの提言 |
出典:『データ分析・AIを実務に活かす データドリブン思考』
フレームワークを理論的には理解できていても、それを現場に適合していくことは本当に難しいものです。そこで、最終章では、データ分析で組織を改革する際にぶち当たるであろう壁や、周囲の人々の巻き込み方について紹介されています。
現場でデータ分析で裏打ちされた組織改革を行なってきた河本さんだからこその読み手をエンパワーメントする文章に勇気づけられる人も多いはず。
DXが加速し、ITがインフラ化する今、さまざまな現場でデータ分析型組織への転換が求められています。そこで思い悩むマネジメント層はもちろん、データ活用人材として活動している人は、ぜひ『データ分析・AIを実務に活かす データドリブン思考』を手に取ってみてください。
(大藤ヨシヲ)
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