まいどどうも、みなさん、こんにちは。
わたくし世界が誇るハイスペックウサギであり、かのメソポ田宮商事の日本支社長、ウサギ社長であります。水曜日ということでまたこちらに登場させて頂いております。いつもありがとうございます。さて、今週はやはりなんと言っても小泉進次郎農水大臣と古米古古米古古古米の話題でもちきりでしたね。コマイココマイでテンテコマイって感じの一週間でしたが、裏ではいわき信用組合が行なっていた不正融資の総額247億円にも上るということでまさかの水原一平越えとなり、こちらもなかなかの話題となっているように思えるのは今週のちょびっとラビットをわたくしがいわき市で執筆しているせいかも知れません。
さて、今週取り上げたいのは、少し前の事件になりますが、2000年11月5日付で毎日新聞が報道し、「旧石器捏造事件」と呼ばれる日本のみならず世界中の考古学業界、そして人類学業界に多大なる影響を与えた事件を紹介したいと思っております。この事件は1950年生まれの藤村新一さんという、宮城県出身の元アマチュア考古学研究家を巡っておきました。藤村さんは1970年代から活動を始め、アマチュア、つまり考古学を専門とする学者ではないながらも、その活躍が認められ、特定非営利活動法人「東北旧石器文化研究所」の副理事長に就任するなど、さまざまな活動を行っており、数々の遺跡発掘に携わっていました。次々と新発見を成し遂げたことから「神の手(ゴッドハンド)」と称されており、業界ではかなり知られた存在だったようです。しかし!この続々と出てくる新発見は実は自作自演の大発見だった、ということが判明してしまいます。この事件は今日でも日本考古学史上最大級の不祥事だと言われております。
藤村さんが捏造した石器の数々は日本列島に前期・中期旧石器時代が存在した証拠とされ、教科書や学術書を書き換えるほどの影響を与えました。藤村さんは他の遺跡で発掘した石器(主に縄文時代のもの)を、発掘現場の古い地層に埋め、自ら発見する、という手法を用いて捏造を繰り返していました。休憩時間に埋めることもあれば、夜間に忍び込んで埋める場合などもあったようです。いずれにせよこのアナログすぎるようにも思える手法で仲間たちの目を潜り抜けていたのだそうです。
日本列島の人類の歴史は3万年ほど前からである、というのがもともとの通説でした。しかし、宮城県の上高森遺跡から60万~70万年前の石器が発見されたことを根拠に、日本列島における人類の歴史は原人の時代までさかのぼる、と考えられるようになったのです。当時、これは高校の教科書などにも歴史的事実として記述されているほど広く受け入れられていました。しかし、これらは藤村さんが捏造した証拠を根拠とするものであることが毎日新聞のスクープ記事をきっかけとして明らかになり、日本列島における人類の歴史は70万年前からもともとの通説だった3万年まで押し戻されたのでした。逆に言うと、彼の捏造により、67万年もの人類の歴史の幻想が生み出されたと言ってもよいかも知れません。ブッタもキリストもびっくりのなんたる壮大なスケール感。
彼の行った捏造行為が正しいことではなかったことは確実ですが、それを容認してしまう、あるいは助長してしまう環境が当時の業界、そして日本にはありました。捏造発覚前は日本の旧石器時代の始まりはアジアでも最も古い部類に入る70万年前、とされておりました。このストーリーにロマンを感じてしまい、これを支持したいとついつい考えてしまう学者や有識者、あるいは考古学ファンの方も少なくなかったと想像します。そして、新発見があった遺跡があるエリアでは、この「考古学的大発見」を町興しや観光につなげたい地元関係者もたくさんおり、興奮冷めやらぬままこの発見を歓迎するようなことも多くありました。それらの一連の流れにより藤村さんをヒーローのように扱う人は増え続け、自然と藤村さんに対する期待値も上がっていったようです。発掘成果が出ない日が連続しているような場合でも藤村さんがやってくると数日中に大発見があったり、大発見が大型連休中などニュースになりやすい時期に集中したり、など、振り返ってみると不自然な点は数多くあったようです。その不自然な感じから藤村さんの捏造を疑う声は少しずつ増えていきましたが、政府も藤村さんの発見を国の史跡に指定したり、発掘された石器を文化庁主催の展示に使うなどをしており、それに対して一部の学者などから批判する声も上がってはいたようですが、あらゆる不自然さに対してなんとなく目を瞑るようなことが続いていたようです。
また、藤村さん自身は、考古学者ではなく、あくまでもアマチュアの立場でこれらの発掘調査に関与しており、自分で報告書を書いたり、論文を発表したりなどは全く行っておりませんでした。石器の図面を書いたりすることもできなかったそうです。そして、「発掘された石器がいつの時代のものかというのは埋まっていた土層の年代測定に頼るしかない」という科学的根拠の限界もこの捏造を発覚しにくいものにしていました。そして、人類の歴史に関わる非常にスケールの大きな普遍的価値遺産が、それぞれのエリアの観光資源として地元住民に過度な期待を与えてしまい、商業的な効果への期待が事実確認の大切さを疎かにさせる一つの要因となったこともこの事件の興味深いところでもあります。発掘された石器時代にも科学的な論点からは多くの矛盾点が指摘されており、30キロも離れた遺跡から発見された石器の切断面が偶然一致したなどのあり得ない発見もあったらしいのですが、これらも華麗にスルーされていた様子です。すごいですね。
もともと藤村さんは周囲の研究者が期待するような石器を、期待されるような古い年代の土層から見つけ出す、ということを繰り返すことにより、その知名度をアップさせてきました。言ってみれば、藤村さんはデータに基づいた仮説に沿った結果を出してくれる人であり、研究者にしてみても、自分の研究や考え方、調査方法が合っていたことの裏付けにもなる話であるため、藤村さんを否定、あるいは拒絶することは自分自身の研究成果を否定することにもなるので、たとえ、ちょっと「ん?」って思ったとしてもなかなか言い出せなかったのではないかと思いますよね。そりゃ、自分の功績にもなるわけですから、一緒になって喜んじゃうのは至って普通のことのようにも思えますが、これは、どれだけデータに基づいた仮説で予測して、予測通りの結果が出たとしても、そして、出なかったとしても、人は予測通りの結果の方だけを採用してしまう可能性がゼロではない、というまことに持って恐ろしいヒューマンネイチャーをわたくしたちに教えてくれているわけです。データドリブンが正しいかどうか、そして、そもそもそのデータが正しいのかどうか、というのは非常に重要な部分であり、データのじかんではそのことに対して何年もかけて言及してきているわけなのですが、そうは言っても、わたくしはウサギなのでヒトのココロがどのようなものか想像することしかできませんが、自分が長年欲しいと思っていた結果がヒョイと出て来てしまえば藁をもすがる気持ちでそれに飛びついてしまう、あるいはそうしたいと心が揺らぐことは極めて自然なことなのかも知れないです。
この事件の捏造が発覚したことにより、藤村さんの発見を証拠として認められていた日本の前・中期旧石器遺跡の全てである162遺跡が遺跡遺物の認定を取り消されました。そして、東北旧石器文化研究所も「学説の根幹が崩れた」と解散に至ってしまっております。藤村さんが捏造に至ったモチベーションがなんだったのかは本人以外にはわからないですし、ここまで多大なる影響を与えてしまうことは想定していなかったかも知れませんが、「考古学業界や人類学業界を困らせたい」という気持ちや「大発見をして自分が英雄になりたい」という気持ちよりも、もしかしたら「周りの人を喜ばせたい」や「この業界や地域の人に夢と希望を与えたい」という気持ちの方が本当は大きかったのかも知れません。それにしても67万年分の人類史を捏造するなんて凄すぎますね。
そんなわけで、今回は日本考古学最大の不祥事と呼ばれる「旧石器捏造事件」をご紹介してみました。それではまた来週水曜日が来ることがあれば、と毎週お話ししてきたのですが、ちょびっとラビットの連載にもちょびっと変更があり、今月から毎週ではなく隔週でのお届けになります!頻度は減りますが、またお付き合いしていただければと思っておりますのでよろしくお願いします。
というわけで、再来週の水曜日にお会いしましょう。ちょびっとラビットのまとめ読みはこちらからどうぞ!それでは、アデュー、エブリワン!
(ウサギ社長)
・前・中期旧石器問題 | 一般社団法人 日本考古学協会
・「後から埋めた?」「そんなことできるか?」見つかった石器は“すべて偽物”…プロ考古学者(39)が〈神の手〉と呼ばれたアマチュア研究家の不正を見逃した理由 | 文春オンライン
・旧石器捏造事件 – Wikipedia
・「神の手」にだまされた研究者、「お前はグルかバカか」迫られた問い…2000年11月「あれから」<20> | 読売新聞オンライン
・旧石器捏造・誰も書かなかった真相 奥野正男 | 邪馬台国の会
メルマガ登録をしていただくと、記事やイベントなどの最新情報をお届けいたします。
30秒で理解!インフォグラフィックや動画で解説!フォローして『1日1記事』インプットしよう!