


子どもの成長がかつてないほど「見える化」されています。学習状況、体力、生活リズム、スポーツの動作にいたるまで、あらゆる情報がデータとして蓄積され、客観的に把握できる環境が整いつつあります。
教育現場では、近年「スタディ・ログ」という取り組みが注目を集めています。これは、児童・生徒が日々の学習で利用したデジタル教材の記録や回答傾向、つまずき箇所をデータとして蓄積し、学びのプロセスを可視化する仕組みのことで、テストの点数や提出物だけでは見えなかった“学びの途中経過”が、データとして把握できるようになってきました。
たとえば、デジタル庁と鹿児島市が行った実証研究では、スタディ・ログをダッシュボードとして集約し、児童・生徒の理解度に応じた指導に役立てる取り組みが進められました。「正答率を意識するようになり、丁寧に問題に取り組むようになった」など、データの可視化が、生徒の主体的な学びを促す効果が見え始めています。

スポーツの世界でも同じ流れが進んでいます。スイングスピード、投球データ、走力の変化を数値化するツールが一般化し、練習風景をスマホで撮影すれば、AIがフォームのクセや改善ポイントを自動分析してくれます。生活面でもさまざまなデータが集まります。睡眠アプリで眠るリズムを可視化したり、食事管理アプリで栄養バランスを記録したり、子どもの健康状態を“数字”として把握する家庭が増えています。親が気づけなかった小さな変化も、データが教えてくれるようになりました。
こうした流れの背景には、「子どもの成長を理解し、よりよい環境をつくりたい」という親と教育者の願いがあります。感覚ではなく、客観的な情報をもとに子どもを支えることができるという安心感もあるでしょう。
一方で、データが増えるほど「見えた気になる」危うさも大きくなります。数値やグラフは説得力が強いため、つい結果だけに目が向いてしまいがちです。しかし、本当に見たいのは“成長の理由”であり“変化の芽”です。そこは、データだけではカバーしきれない部分でもあります。

子どもの成長を見るとき、私たちはつい「成果データ」に頼りたくなります。身長・体重、トレーニング量、食事量などのデータは成長の“手触り”を与えてくれますが、その裏で親は常に揺れ続けています。
私自身、息子が中学生になったタイミングで「身体をもう一段大きくしたい」と思い、食事面の強化に本格的に取り組み始めました。硬式野球では、身体の強さがパフォーマンスに直結することは明らかで、チームからも食育は強く推奨されていました。栄養学に関する情報が折に触れて共有され、「大きくなるための食事」を意識する日々が始まりました。
しかし、同時に“情報の海”にも放り込まれることになります。ネット検索をすれば、「タンパク質は体重×1.5g」「朝食が鍵」「吸収効率」「糖質と脂質のバランス」など、膨大な情報が出てきますし、インスタグラムには、栄養たっぷりの“育成ごはん”のレシピがこれでもかと並んでいます。
さらに、精神的に揺らぐポイントはもう一つあります。「周りの子が急に大きくなりはじめる」ことも、親としてはプレッシャーに感じることがあります。「どうしてうちは伸びないんだ……?」「食べさせ方が悪いのか?」「やっていることが間違っているのか?」と、焦りを覚える瞬間もありました。

もちろん、成長期のタイミングには大きな個人差があります。わかっていても、目に見えて大きくなっていく周囲の子を前にすると、どうしても比較してしまう。数字は便利ですが、ときに「不安」を増幅する装置にもなり得ます。
さらに、「理想的な食事モデル」が、現実には実行しにくい側面もあります。体調は日々変わり、推奨メニューを毎食食べられるわけではありません。食の細さ、好み、生活リズムには個人差があり、「食べない日」も当然ながらあります。
そんな中で以外と継続できたのが、「毎食、白米を400グラム食べる」というような、シンプルな方法でした。もちろん栄養バランスは大事ですが、成長は個人差が大きく、どれが“正解”かは誰にもわからないのです。どれだけ食事を工夫しても、数値(体重・筋肉量)にすぐ反映されるわけではありません。
一方、試合の結果や成績に表れなくても、生活習慣が整っていたり、本人の意識が変わっていたりすることはあり、こうした「見えない変化」こそ、長期的な成長の土台になる。
情報が多いほど、焦りや不安は増える。これは食育に限らず、教育やスポーツにも通底する“データ時代の難しさ”だと感じています。

子どもの成長は、本来とても“ゆっくり”したものです。しかし現代の私たちは、スタディログの学習履歴、体重や身長の推移、投球データやバッティング指標など、日々の変化を「数字」で確認できてしまう環境にいます。その便利さの一方で、“変化がない”期間に必要以上の不安を抱えてしまうことも少なくありません。
しかし、本当に大切な変化は、数字では把握しきれないことが多いのではないでしょうか。
たとえば、スポーツでいえば、データでフォームを分析できるようになり、数字の上下を気にする子も増えました。しかし、数字の前には必ず「感覚の変化」があります。また、学習の世界では、スタディログに残るのは「どの教材を何分使ったか」「テストの得点」といった“ログ”だけで、悩んで手が止まった時間や新しい内容に挑戦する勇気、分からないまま机に向かった努力といった定性的な成長は数値化されません。
スポーツでも同じです。息子の野球を見ていて感じるのは、「成長とは、結果が出ない期間をどう過ごすかで決まる」ということでした。しかし、親が数字だけを追いかけてしまうと、「結果が出ない=成長していない」という誤解につながってしまう。
そこで親が見落としがちな「不可視のプロセス」を見極めるのに重要になるのが、「観察」と「対話」というスタンスです。たとえば、「昨日より声が出ていた」「練習への入り方が丁寧だった」「自分から工夫しようとしていた」といった、数字にならない変化を見つけることが観察です。

対話は、「今日はどこを意識していた?」「その感覚、昨日と何が違う?」と、本人の言葉を引き出し、自分自身の理解につなげる関わり方です。
コーチングの世界では、“答えを教えるのではなく、気づきを引き出す”ことが重要だと言われます。これは親子の関係でも同じで、親がデータをもとに技術を分析する必要はありません。むしろ数字の外側にある「兆し」を拾い、本人が自分のペースで変化を積み重ねていく環境を整えることが求められているのだと思います。
データが豊富になった現代では、子どもの成長を「数字」で確かめたくなるものです。しかし、学びや技術の上達には、数値には映らない小さな変化が必ず存在します。親がすべきことは、データから正解を探すことではなく、子どもの中に芽生える微細な“兆し”を観察し、言葉を交わすことです。結果が出ない時期も含めて、そのプロセスを信じる姿勢こそが、子どもを支える土台になります。データが豊富な時代だからこそ「見えない変化」を信じられることが、これからの親に求められる新しいリテラシーではないでしょうか。
(TEXT:阿部欽一 、編集:藤冨啓之)
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