ウォーレン・バフェットが警鐘を鳴らす「企業のがん」 成熟した組織を破滅へ導く「ABC」とは? どんな企業が当てはまる? | データで越境者に寄り添うメディア データのじかん
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ウォーレン・バフェットが警鐘を鳴らす「企業のがん」 成熟した組織を破滅へ導く「ABC」とは? どんな企業が当てはまる?

         

ウォーレン・バフェットといえば「投資の神様」として知られる人物。2022年、Forbes誌によると彼の個人資産が1,167億ドルに到達したとされ、その前の2021年3月には米Amazon元CEOジェフ・ベゾス、テスラCEOイーロン・マスクらが名を連ねる資産1,000億ドル(約10兆8,000億円)の「大富豪クラブ」の世界6人目のメンバーに加わったことが報道されました。
一方で、「贅沢はモノを所有することじゃない」と明言し、富のほとんどを社会貢献のための寄付など慈善活動に捧げる同氏は、世界一の投資家として以上に、その思想・哲学に一目が置かれています。

先日、寄付にも積極的な同氏が、同じく「大富豪クラブ」メンバー、ビル・ゲイツの設立したビル&メリンダ財団CEOであるマーク・スズマン氏に伝えたのが“「ABC」のリスクに気をつけろ”というメッセージです。

このABC、みなさんはなんだかわかりますか……?

「ABC」とは……?

早速答え合わせをしましょう。
バフェット氏のいう「ABC」は、以下の3つの単語の頭文字です。

・傲慢(Arrogance)
・官僚主義(Bureaucracy)
・自己満足(Complacency)

バフェット氏は2014年にも、自身がCEO兼会長を長年務めてきた米投資保険会社バークシャー・ハサウェイの後継者に求める点として上記のABCと闘う能力を掲げたとのこと。

なぜ彼はここまで上記の3つに危機感を覚えているのでしょうか?
それは、企業や団体、あるいは国が成熟するほど上記の罠がじわじわと足元を侵食してくることを知っているからでしょう。バフェット氏はこれらを「企業のがん」と呼び、ゼネラルモーターズやIBM、シアーズ・ローバックなど、かつてゆるぎない地位を築きながら、大きく業績を落としたり経営破綻に陥ったりした企業に言及しています。

ここからは私たちもA・B・Cそれぞれについて具体的な事例や関連トピックを見ながら、思考を広げていきましょう。

「傲慢(Arrogance)」に陥った世界最大の小売店シアーズ

【傲慢(ごうまん)】
 高ぶって人をあなどり見くだす態度であること。

                 ──グーグル日本語辞書(Oxford Languagesに準拠)より

1973年、世界最大の小売店と称されたシアーズ・ローバックは同社の繁栄の象徴として、世界で最も高い建築物、110階建てのシアーズ・タワーを本社ビルとしてシカゴに建築しました。
──1994年には、経営不振により同ビルを売却、2018年には倒産という未来が待っていることも知らず。

1970年代にはシアーズの成長の勢いは低下し始め、ウォールマートらライバル企業がその座を虎視眈々と狙っていました。それにもかかわらず同社は自らを唯一無二の覇者と誇示するため、世界一のタワーの建造に勢力を注いだのです。

うわさでは、タワーの落成を前に鉢植えを運び込む横を、人員削減の憂き目にあった元社員たちが通り過ぎて会社を去って行ったとか。

自社が何か“象徴的なもの”に投資しようとしているときは、「傲慢になっていないか?」と足元を見つめ直した方が良いかもしれません。

「官僚主義(Bureaucracy)」に陥りやすい日本企業

【官僚主義(かんりょう-しゅぎ)】
官僚制のもとにある国家の官庁や社会集団にみられる、特有の行動様式と意識状態。上位の者に対しては弱く、下位、外部の者に対しては国の権威をうしろだてにして尊大、独善的、また、画一的であり、内部では役や仕事の範囲内から出ようとしないで、事を処理しようとし、また、責任をあいまいにする態度、気風など。……

                 ──コトバンク(精選版 日本国語大辞典出典)より

官僚主義は日本企業において特に蔓延しやすい病といえます。
以下の図をご覧ください。

引用元:INSEAD発「カルチャー」で成長し続ける人材マネジメント #4 中国人やインド人が、すぐにちゃぶ台返しをする理由┃日経ビジネス
これは、フランスの名門ビジネススクールINSEAD(欧州経営大学院)で教鞭を取るエリン・メイヤー教授が作成したカルチャー・マップです。日本は、ひときわ極端な「階層主義かつ合意形成型」というゾーンに位置づけられていますね。

上下関係がはっきりしていて現場の意見が通らないにもかかわらず、責任を誰かが被ることがないため、意思決定が遅れる。これこそ、まさに官僚主義の病理ではないでしょうか。

京セラ、KDDIの創業者、稲盛和夫氏は、2010年に経営破たんした直後のJALについて「非常に硬直化した官僚的な組織だった(※)」と形容したそうです。社員との対話やアメーバ経営など、そこからJALの再建のために稲盛氏が行った軌跡を知ることは、脱官僚主義の参考になるはずです。

※引用元:カリスマ経営者が語るJALの破綻と再生┃あさがくナビ

「自己満足(Complacency)」が倒産を招いたコダック

【自己満足(じこ-まんぞく)】
 自分自身、または自分の行為に、自ら満足すること。

                 ──コトバンク(精選版 日本国語大辞典出典)より

自己満足は傲慢と似ていますが、傲慢が他社との比較を前提としているのに対し、より内向きと言えるかもしれません。周囲に目を向けず、独りよがりな「選択と集中」に取り組むことで、大きく道を誤っていたことに取り返しがつかなくなってから気づくことになるのです。
その事例として挙げられるのが、「イノベーションのジレンマ」に陥った結果生じた、写真用品大手コダックの凋落です。技術力・売上ともに業界のトップを走っていた同社は、デジタルカメラの時代が訪れたにも関わらずフィルムにこだわり続けたことで業績を落とし、2012年に倒産することになりました。

重要なのは、同社はデジタルカメラを発明した企業であり、その後投資も行っていたということです。それにもかかわらずデジタルカメラ時代に取り残された一因に、当時のデジタルカメラではフィルムに匹敵する品質が生み出せずとても主流になるとは考えられなかったこと、また写真は印刷して楽しむものという前提を疑えなかったことがあります。

名実ともに地位を築いているからこそ、現状に自己満足してしまい、市場や顧客の変化についていけなかったのです。このように現状が安定しているように感じられるときこそ、自己満足に陥っていないか疑うべきでしょう。

終わりに

冒頭で触れた「大富豪クラブ」の一員ジェフ・ベゾス氏はCEO時代、社内会議で「Amazonはいつか倒産する」という予測を述べたそうです。それは、ほとんど大企業の寿命は50年にも満たないという統計的事実に基づいています。
「ABC」に対抗するには、このように客観的に自社を見つめる姿勢が不可欠でしょう。
データはそのための武器でもあるのです。

【参考資料】
・Mark Suzman『Thank you, Warren, for your generosity』┃BILL&MELINDA GATES foundation
・バフェット氏、資産1000億ドル以上の大富豪に仲間入り-世界で6人目┃Boomberg
・バフェット氏、後継者は企業衰退のABCと闘う能力必要-書簡┃Boomberg
・バフェットが警鐘、巨大ビジネスを崩壊へと導く「ABC」┃BUSINESS INSIDER
・Warren Buffett warned the Bill & Melinda Gates Foundation's CEO about the 'ABCs.' The investor has flagged those threats before┃MARKETS INSIDER
・江幡真史『20世紀後半における米国シアーズ・ローバック社の多角化経営の展開』経営学研究論集、2020
・リチャード・S・テドロー (著), 土方 奈美 (翻訳)『なぜリーダーは「失敗」を認められないのか (日経ビジネス人文庫) 文庫』日本経済新聞出版、2015、p287
・カリスマ経営者が語るJALの破綻と再生┃あさがくナビ
・Bryce Hoffman『アマゾン倒産を予期したベゾス その姿勢が会社を救う理由』┃Forbes
 
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