食の商品企画・開発領域における「勘と経験」の価値を最大化する 新たな取り組み食のDXツール「FOODATA」 | データで越境者に寄り添うメディア データのじかん
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食の商品企画・開発領域における「勘と経験」の価値を最大化する 新たな取り組み食のDXツール「FOODATA」

ウイングアーク1stは2021年7月、伊藤忠商事および味香り戦略研究所と共同で開発した「FOODATA(フーデータ)」の提供を開始した。FOODATAは食品の味データと販売データなどを一つのプラットフォームに入れて分析できるもので、食の商品企画・開発領域での活用が期待されている。ユニークな分析ツールの特長について、ウイングアーク1stの担当者に話を聞いた。

         

[写真左]ウイングアーク1st ⼩売・外⾷DX企画部 松本 俊介氏
[写真右]ウイングアーク1st ⼩売・外⾷DX企画部 関口 太郎氏

定性的な「味覚」を定量的なデータとして捉える挑戦

「レーダーチャートを見ると、A社の抹茶ラテはベンチマーク品の抹茶ラテと比較して、抹茶感が強く、口当たりがまろやかで、後味はすっきりしている」

レーダーチャートにより味の構成要素が視覚化される。

このレーダーチャートは、ウイングアーク1stが伊藤忠商事および味香り戦略研究所と共同で開発したFOODATAの機能の一部である。FOODATAを活用したこのような議論が、食の商品企画・開発の形を大きく変えそうだ。

人間の舌は「甘味、酸味、塩味、うま味、苦味」の5つの基本味を感じるとされる。いわゆる成分量の分析は従来から行われていたが、実際の「舌」が感じる味覚を数値化することは、最近まで困難だった。そこで、食品メーカーなどでは味の評価が不可欠だが、多くは人間の官能、すなわち経験と勘によって行われてきた。あくまでも主観的なものであり「〇〇さんがいいというなら大丈夫だろう」といった判断も日常茶飯事だったのだ。

ウイングアーク1st ⼩売・外⾷DX企画部 関口 太郎氏

FOODATAの開発に携わった、ウイングアーク1st⼩売・外⾷DX企画部の関口太郎氏は次のように説明する。「FOODATAは味香り戦略研究所の持つ味覚データを味覚チャートとして『可視化』します。これにより客観的に味を評価することが可能になります。ただし、味の評価は、成分を分析すればいいというものではありません。例えば塩味についていえば、ナトリウムの含有量を測れば味が評価できるわけではないのです。FOODATAを共同開発した味香り戦略研究所では、九州大学高等研究院の都甲潔(とこう・きよし)特別主幹教授の研究をもとに、10万アイテムを超える味覚データベースを構築しています。FOODATAにはそのデータも取り込んでいます」

都甲教授は、国内における味覚研究の第一人者だ。人間の舌の細胞が味物質を感知すると、細胞膜の内側と外側で電位差が変化する。これが信号として脳に送られ、味として感じる。都甲教授はこの電気信号をコンピュータで分析するとともに、それを可視化する味覚センサーを世界で初めて開発した。

味覚センサーはすでに製品化されており、大手食品メーカーなどでは、自社で所有し分析に活用しているところもある。これとFOODATAはどう異なるのか。

ウイングアーク1st ⼩売・外⾷DX企画部 松本 俊介氏

その問いに、ウイングアーク1st⼩売・外⾷DX企画部の松本俊介氏は次のように答える。「FOODATAのローンチは2021年7月ですが、その半年ほど前から、FOODATAのプロトタイプを複数のユーザーに使ってもらってテストをしていました。食品企画・開発の現場では、ID-POS、消費者調査、SNSデータなど多用なデータを用いて企画を組み立てます。味は食品の根幹ですが、味のデータだけで食品企画・開発を行うケースは少ないですし、また多用なデータを分析する順序や各データの重み、データの組み合わせが重要だということがわかりました。ID-POS、SNS、消費者調査を分析できるサービスは数多くあります。しかしそれらが一つにパッケージングされたサービスは恐らく存在していないため、業務では必要なのにデータを繋げる労力とコストがかかるのです。であれば、必要なデータを1つにパッケージしたツールがあれば便利ではないかと考えました。それがFOODATAです。」

「モノデータ」と「ヒトデータ」をかけ合わせる

FOODATAのデータの集計から可視化の領域では、 ウイングアーク1stのBIツール「MotionBoard」とデータ基盤ソリューション「Dr.Sum」が組み込まれている。


松本は「大手企業であれば、FOODATAで見られるようなデータを収集しているところもあるでしょう。ところが、データやツールが社内の複数の部署に分散していたり、集めたとしてもエクセルのシートから手作業で転記するといったことになりがちです。FOODATAであれば、それを見やすい形で閲覧できます」。まさに、味・栄養・原材料などの食品に関する「モノデータ」と、ID-POS・意識・口コミなどの消費者の行動・嗜好に関する「ヒトデータ」をかけ合わせ、その分析結果をダッシュボードで可視化できるわけだ。食品メーカーなどでの業務を大幅に効率化できるだろう。

FOODATAの3つの特徴
・⾷品の商品企画・開発プロセスに特化した業務⽀援ツール
・味覚・原材料などの商品データと、ID-POS・製品評価などの消費者データをかけ合わせた分析が可能
・今までバラバラに存在していたデータを商品軸で集約し、ワンストップで分析業務が完結

「モノデータ」と「ヒトデータ」のかけ合わせにより、新たな発見や気づきも得られそうだ。「ただし」と関口は加える。「例えば、表示されたデータを一方向から見ただけで正解が出るわけではありません。複数のデータを掛け合わせ、俯瞰したり、絞り込んだりしながら、見方を変えたりなど、データをどう解釈するか考えていくことが大切です。」

例えば冒頭の抹茶ラテの場合、最たる特徴の「渋み(先味・後味)」の強さは抹茶感を表す。液体茶の中で、抹茶の特徴は「苦味」ではなく「渋み」に出る。逆に紅茶などの発酵茶系の特徴は「苦味」に出るという。

「このあたりをどう判断するかは、まだ人の手が必要なところです。そのために、味データに関しては、味香り戦略研究所がデータの読み方も含めて、コンサルティングを行います。FOODATAではその部分も含めた形でサービスを提供しています」。システムだけの提供ではなく、試作品のコンサルティングや提案支援など、食品企画開発における課題解決に必要なサービスをトータルに提供しているという。

FOODATAは、ウイングアーク1st、伊藤忠商事、味香り戦略研究所の3社がそれぞれの強みを発揮して生まれたサービスである。味香り戦略研究所は、食の味覚・香り・食感のなどの解析を手がける。伊藤忠商事は数多くの食品メーカーを顧客に持つ他、グループには消費者調査を行う企業もある。FOODATAでは、消費者調査サービスも可能で、調査データはFOODATAに取り込んで活用できるという。関口は「さまざまなデータをどのように持って来て、どのようにためて、どのように統合するかといったデータの取り扱いに関する知見はウイングアーク1stの得意とする領域です」と紹介する。

ちなみに、FOODATAは、3社によるレベニューシェア(収益分配)型の共同事業としてサービス化し販売しているという。3社がそれぞれの既存顧客や新規顧客に販売することも可能だ。既存のビジネスモデルとは大きく異なる点も注目だ。

共通言語化により、開発部門以外での活用にも期待

これまでみてきた通り、FOODATAは、「味」「消費者調査」「ID-POS」「SNS分析」のデータを搭載し、商品開発領域で活用できるよう統合した前例のないサービスだ。ローンチされてから、ユーザー企業の評価はどうなのだろうか。

松本は「今までにない切り口で面白い、使えそうだという反応が多いです。また実務をやられている方はワンストップでデータを閲覧できるので使いやすいというのと、コストが抑えられるという声もあります。今、契約しているものを解約してFOODATAにしようかという企業もあります」と話す。

大手の市場調査会社に依頼すれば、1カテゴリーの商品の調査でも100万円以上の費用がかかることが珍しくない。だが、FOODATAなら複数のカテゴリーを見られる。その理由について関口は「これまでは各社が独自に味データの分析などを行なっていたため、競合の人気商品は各社が自社で利用するためにコストをかけて分析していました。自社のためだけに分析をするので当然コストは高くつくわけですが、それに対してFOODATAでは、そういった人気のある商品は、FOODATAとして事前に分析を行っています。これらのデータは全てのお客様が同じように見ることができるデータとなり、お客様が増えれば増えるほど、全体としてコストパフォーマンスが良くなっていく仕組みなのです」。単純な調査を受託的に行うサービスではなく、それ自体にデータが蓄積されて価値を生んでいるということだろう。まさに、SaaSサービスだから提供できる価値といえる。

今後のユーザーの広がりについて松本は「さまざまなデータが可視化され、取り入れられることにより、FOODATAが共通言語化し、企業の部署をまたがって会話ができるようになると思います。企画、開発、マーケティングの担当はもちろん、営業部門の方も、さらには営業部門の方も、FOODATAを活用できるのではないでしょうか。例えば流通向けに商品を提案している場面で、相手のバイヤーの方から『もう少し酸っぱく』といった話が出たとき、これまでなら原材料をこれだけ変えましたといった話しかできなかったところに、FOODATAを活用すれば『味覚』という指標を加えられます。それにより商談の回数を減らしつつ、試作品を提案する機会を増やすこともできるでしょう。商品の企画開発の速度が上がるのではないかと思います」と話す。むろん、社内のボードメンバーなど経営陣に対して、新商品のコンセプトや戦略を説明する際にも、説得力が増すに違いない。

関口は「食品メーカーと小売業をつなぐ卸売業などでも、データを共有して新たなビジネスを生み出せるのではないか」と期待をする。いずれにしても、FOODATAの誕生は、大きな可能性を秘めているといえそうだ。

前編ではFOODATAの特長について紹介した。後編では、商社、研究所、IT企業と各業界のトップランナーが企業を横断した共同開発プロジェクトの経緯、裏側、プロジェクトの立ち上げにあたってどのような苦労があったのか、また、それをどのように乗り越えていったのか、さらにはFOODATAの将来像についても二人に語ってもらった。

(取材・TEXT:JBPRESS+稲垣 PHOTO:Inoue Syuhei 企画・編集:野島光太郎)

 

 
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