高須正和×大川真史対談 21世紀の産業革命はメイカームーブメントの先にある | ページ 2 | データで越境者に寄り添うメディア データのじかん
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高須正和×大川真史対談 21世紀の産業革命はメイカームーブメントの先にある

         

ハードウェアは面倒

高須 – 最近、5年くらい見ていてやっとわかったのが、ハードウェアはスタートアップがやるものではないですね(笑)。

大川 – (笑)。

高須 – 深センの周りにあるハードウェア企業、スタートアップが多いと思っていたんですけど、あれはあくまでDJI[4]みたいに極端に目立つ会社がいるだけなんです。実際には、ほとんどが町工場の2代目とかが、工場の空いた時間に作ったものがヒットしているんですよ。

「開発を自分たちでやる必要がある」という面ではハードウェアもソフトウェアと変わらなくなってきていると思っていて。ソフトウェアの世界では、2002年くらいまではビジネスモデルを事業会社側が握っていて、Webサイト構築はSIerにやらせましょうみたいなのがあって。まあ、だいたい全滅したじゃないですか(笑)。

大川 – ですね(笑)。

高須 – 事業会社がソフトウェア事業は抱えられないから、上手い感じでビジネス屋さんと一緒にやりましょうみたいな。でも、今やメルカリでもMakuakeでも、ソフトウェアエンジニアやデザイナーを抱えているわけですよね。ピュアにハードウェアで勝負している会社を見ていると、結局工場持ってない会社というのはあまりない(笑)。ほとんどのハードウェア会社は自社工場を持っているわけです。

最近M5Stack[5]がさらに製造ライン作ったんですよ。この長机(約6~7m)の倍くらいの長さしかない製造ライン(笑)。社員は全員で50人くらいで、そのうちラインで働いているのは25人とかですね。でも、StickCとStickVはいまだに全部社内製造ですよ。

大川 – 素晴らしいですよ。しかも製造ラインのところに製品に関する日本人のツイートを印刷した紙が貼ってあって。それは最高じゃないかと。これぞ製造業だとすごく思ったんですよ。くそエモいなと思って(笑)。

高須 – M5Stackなんてシンプルなプロダクトなので、中を開ければ回路図とかいくらでも見えるわけです。だからこそ、自分のところでラインを作らないと改善も何もできないんですよ。ソフトウェアでもクラス作るときに申請書書いて、コミット前に許可取るみたいな文化がだんだんレガシーになりつつあるわけじゃないですか。製造外注も結構それに近い感じで。外注しようと思うと、ちゃんと毎回仕様書きっちり切って、手順書作って、さあ製造スタートみたいな話になるじゃないですか。それは、もちろん永遠になくなるわけではないかもしれないけれど、よりアジャイルっぽい形があったとしたらそっち側にどんどん移行していくと思われるので、そういう新しい形での製造というのが進んでいくんでしょうね。M5Stackほどゆるくしていいのかどうかという問題はありますが(笑)。

大川 – 日本でも、同人ハードウェア[6]をやっている人たちの、もうちょっと本気出せばいけるじゃんっていう空気感がすごいですよね。それこそビジネスモデルとかマーケティングとかセールスチャネル開拓の体制が整ったら、飛躍的にムーブメントとなる予感がします。あれは特に中堅・中小製造業の人は知るべきだと思うんですけどね。

高須 – そうなんですよね。ハードウェアは確かにあんまり大もうけできないんですけど、ソフトウェアと違って売り上げがゼロではない状態に持ち込むのはラクなんですよ。ソフトウェアで少額でも売り上げがきちんと上がるところに持っていくのって超面倒くさいんですけど。ハードウェアだとそれができるんです。すごく極端な話9割引にすればどんなハードウェアでも売れるので(笑)。

大川 – 人はものがあると買いますからね。

高須 – ハードウェアのほうが、赤字になるかもしれないけど売り上げが立ちやすいんです。売り上げが立つと仮定すると、次は製造のクオリティを上げることができるようになる。簡単に言えば、部品のグレードアップですね。最近、中国の試作メーカーでFusion PCBやelecrowが注目されていますが、プロトタイプなら、彼らの作る部品のクオリティで十分という製品もあります。

大川 – じゃあ、なぜ日本の製造業はそこから買わないのかとなりますよね。全部変える必要はなくても、1割2割あれに変えたほうがいい会社って世の中にいっぱいあると思っていて。

高須 – 日本の製造業はそれはそれで、そこにものすごく特化してますからね。そこは藤岡さん[7]が一番得意なテーマではあるんですけど。品質基準であり部品であり。

大川 – 僕の中では、分業していることそのものの悪さみたいなことをものすごく感じていて。まったく意図が伝わらない。マーケットから設計に行って、生産、製造技術と行って、生産に入っていくという。いわゆる分断されているわけです

高須 – いわゆるデザイン思考的なものが無くなるみたいな感じですよね。

大川 – その真反対にいてデザイン思考的なものづくりが、M5Stackなんじゃないかと思うんです。そこまでいかなくても、もうちょっと分業じゃないやり方を、日本の製造業のカルチャーとして持つべきじゃないのかなという気がしています。

高須 – そうですよね。系列みたいなので進化する形のモデルって、世の中がゆっくり発展しているときは、あれで最適化できればいいし、成功していると系列全員儲かるんですけど。シュリンクすると他から仕事取ってこられないあのモデルは辛いですよね。

変わる人、変われない人

高須 – このような課題を役人さんと話していると、みんな優秀だからアタマでは理解できるんだけど、特にお役所だと麻雀で言う切れる牌が決まっていて、積もる牌も決まっているから、すごい腕が上がっても、リーチかかってるからどうしようもないですね、みたいな感じになるんですよ(笑)。

大川 – わかります(笑)。しかもかなり手順が進んじゃって、今から手を変えるんですか?みたいなケースが多いということですよね。

高須 – さっきのメイカーフェアを大きくしようという話と少し似てて。要は動ける人と一緒に動くしかないのかな、という気持ちがあったりします。

大川 – それって気付かないままでいるから変化しないだけで、あるとき「はっ」と気付く人も結構いるんじゃないかと思うんですけど。

高須 – 僕もいると思うんですけど。

大川 – 高須さんの話を1回でも聞いたことがある人に、今回高須さんが講演することを伝えると、絶対行くっていうんですよね。高須さんの話を人づてに聞いた人は、絶対という訳でもないんですよ。これはおもしろいなと思って。

高須 – 深センのコミュニティを見ていると、深センに来てその後の人生変わる人変わらない人がいて。

大川 – 変わらない人います?

高須 – 忙しい人じゃないですかね。

大川 – どこまで変わるものですかね。僕は深センに行ったときに、すごくいろんなことに感動して「うわーっ」という感情が押し寄せてきました。華強北を見て、高須さんの話聞いて、ふーんって帰る人いるんですか?

高須 – そういう人のほうが多いですよね。一部上場企業の30代の中堅社員のような人たちも忙しいですからね。ただ実際は、忙しいかどうかって、正直わからないんですよ。暇だから何回も深センに来るかっていうと、実はそうでもなかったり。

大川 – 優先度の問題でしょうか。

高須 – 優先度って、優秀な人ほどあんまり自分で決められないじゃないですか。たまたまそのとき、プロジェクトにすき間が空いたとか、会社1個エグジットしたとか、そういうタイミングで深センのコミットがガッと上がるということはあるんですよ。でもそれってタイミングみたいなもので。僕がアクセラレーターだとしたら、提供しているプログラムを変えても基本そういう人の興味をこちらに向かせるというのは無理だなということがわかったんですよ。となると、あとはプログラムの量を増やすか、受講者を増やしていく、つまり母数を増やすみたいなことしかできることがなくて。別に来ない人はしょうがないだろうと。嫌われたから来ないのか、中身がつまらないから来ないのか、イスラエルとかのほうがおもしろいからそちらに行っているのか、単に忙しいのか、そういう個々の理由を検討してもしょうがないし、僕からアクションを起こして変動できる要素ではないので。それよりは年1回であったのを年3回にすると、とりあえず結果は3倍に上がるなという。そういう思考です。

大川 – 公的機関や金融とかの支援者って言われている人たちがいるじゃないですか。その中でも、ピンと来る人、来ない人もいると思うんですけど。その人たちに、クラウドファンディングみたいなやり方が世の中にはありますよねと伝えたりもするんです。一方で、各種補助金を出していくというレガシーの仕組みも残っていて。

高須 – お役所は制約条件が大きすぎて難しいですね。スイッチサイエンスマーケットプレイス[8]が手数料10%でやっているのはこういうことをやりたいからで。あれでも年間5000万とか6000万とか売り上げているはずなので、何人かはきちんと仕事にしている人いるはずですよ。ニコ技深センコミュニティでも、うまくいっている例は、用事もないのに深センに何度も来る人というのがいて、そういう人たちが何か仕事にするんですよね。おもしろいもの見つけたから輸入することを続けていたら、起業していたりとか。

大川 – 明らかに、日本全体の人の割合からして少なすぎますよね。アクティブに実践することに興味を持っている人が。それはすごいもったいないというか残念な感じです。

 
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自分で作ったものを売る

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