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キーワードは「遊ぶこと」と「早く失敗すること」!?HEROZ関さんが考える、企業のAI利活用を活発にするカギ。

将棋AIで培った“実戦的”テクノロジーで話題のHEROZ社。前回の記事では林社長に将棋AIについて話を伺った。しかし、将棋で培ったAIの知識をいかに活用するか、がHEROZ社の今後の鍵を握るテーマだ。AI最前線で事業を展開する同社でLLM(大規模言語モデル)の開発を中心となって進めているのが関享太さんだ。猛烈な勢いで進化を続けている生成AIの世界で、顧客や協働企業との価値共創はどのように実現していくのか。HEROZの現在地とともに、企業におけるAI利活用のポイントを聞いた。

         

生成AIで遊ぶことはめちゃくちゃ大事!

HEROZは2023年5月、ChatGPTをはじめとしたさまざまな生成AIの応用を目的とした専門チーム『LLM Group』を立ち上げた。そのリーダーが関さんだ。なぜいま、このタイミングでLLM(大規模言語モデル)の専門チームを立ち上げたのか。そこには、AIの世界をリードしていきたいスペシャリストと組織運営のリーダーという、2つの視点が交錯している。

「特にここ数か月におけるAIの進化は凄まじいものがあります。ほぼ毎日のように、新しい論文やサービスが発表される。毎日が刺激的なのですが、それを欠かさずキャッチアップしていくのは簡単ではありません」と関さん。

HEROZでは多くの仕事はプロジェクトベースで動いており、顧客へのコンサルテーションから開発、運用まで一気通貫で手掛けるのが一般的だ。誰もが忙しく働いているなかで、関さんは「スタッフの意識や興味が、どうしてもお客さまが解決したい課題に引っ張られてしまう」と表現する。

「最新の技術テーマであるLLMは、お客さまの課題解決に採り入れるには未成熟、時期尚早な領域です。刺激的でとても興味のある技術テーマでも、日々の仕事のなかで接触できる機会は少なくなっていきます」(関さん)。

生成AIを巡る内外の動きが活発化しているなか、日々の流れに身を任せていては何も変わらないのではないか。HEROZの技術的知見の蓄積が遅れてしまうことは絶対に避けたい。では何ができるのか――そんな関さんの思いが『LLM Group』発足の背景にあった。

「プロジェクトを受注して長い時間をかけて取り組んでいると、どうしても既存のニーズに向き合うことだけに偏ってきてしまいます。うちは『驚きを心に』をコンセプトに掲げている会社です。周りを驚かせるものをつくり続ける仕組みも大切にして全体を良くしていかないと」と関さん。上場企業として収益を追求しつつ、AIを基盤としたテックドリブンな組織であり続けるためにも、『LLM Group』は必要だったわけである。

『LLM Group』の発足に伴い、HEROZではどのように生成AIを取り入れているのか。どんな業務を行っているのか。関さんは「自由に遊んでいます」という。「生成AIで遊ぶことはめちゃくちゃ大事」としながら続ける。

「オフィシャルに遊び用のスレッドを作って、AIで遊んでもらっています。メンバーを限定せずに、興味がある人だったら誰でも参加できます。『こんなのが出たけど』『これすごくカッコいい』みたいな、関係のない話も少なくはないですが、定時以降急にスレッドが盛り上がったりしていますね。プログラマやデータサイエンティストはいつも頭を使っていますから、遊び心っていうんですか、こういうところから新しいアイデアが出てくることもあると思って」。

仲間とワイワイ・ガヤガヤしながら生成AIに触って試している――という感じだろうか。もちろんスペシャリストが興味をもって試しているので、新しい知見を得る可能性は極めて高い。関さんは、あえて「遊んでいる」と表現したが、そこは餅は餅屋。言葉通りに受け取ってはいけない。

「何度同じことを聞いても決して怒らない先輩」をAIでつくる

HEROZのAIソリューションはさまざまな領域で応用が進んでいるが、エンターテインメントと金融、建設が最もわかりやすいかもしれない。

エンターテインメントでは前回も取り上げたオンライン将棋対戦ゲーム『将棋ウォーズ』が代表的だ。「将棋ウォーズも、いろんなところでAIを使っています。将棋を指す部分が目立っていますが、他には対局相手をマッチングするところとか。実はまだアナログな部分も残っていて、例えば、ユーザーさんからの問い合わせ対応を生成AIで代替できないか検討中です。実はこれに関するプレスリリースが9月8日に公開されたばかりです。」(関さん)。

金融分野では、SMBC日興証券と共同で「AI株式ポートフォリオ診断」「AI株価見守りサービス」を開発。すでに個人向けに稼働している。いずれも同社独自のAI「HEROZ kishin」を用いて、保有株式のより効果的な組み合わせや投資戦略に合った売却タイミングなどをアドバイスする。ちなみに「kishin」は「棋神」を由来とする同社AIのブランドネームで、将棋AIで培った“実戦的”なテクノロジーが導入されている。

建設分野では最近、ChatGPT(GPT-4)をチューニングして宅建(宅地建物取引士資格試験)の建築基準法関連の問題を解かせたことが話題になった。

「GPT-4って脅威的に優秀で、アメリカの宅建のような試験で上位数%に入るようなレベル。でも日本の宅建は法規などが複雑で、GPT-4でも正答率がボロボロでした。それをチューニングすることで、宅建に合格できるレベルまで上げることができました。これは数か月前の話なので、いまではもっと正答率が上がっています」(関さん)。

関さんはクライアントとのコミュニケーションのなかで、興味深いテーマを発見したという。それは「怒らない先輩」という概念だ。怒らない先輩の真意とは?

「何回同じ質問をしても決して怒らない優しい先輩。それを生成AIでつくれないかと。確かに、先輩から『わからなかったら聞いて』といわれても、何度も同じ質問はできません。アドバイスをもらったときにメモが取れない状況もあるのに。『さっき教えただろ!』と怒られたら、聞くのを尻込みしちゃいますよね。これは誰しも経験があるかと思います。このことで、伸びる人と伸びない人の差が出てしまうのは合理的とはいえませんよね。特に、コロナ禍以降でリモートワークとのハイブリッドが当たり前になった今、気軽に上司や先輩に相談しにくいという話は枚挙に暇がありません。この課題はテクノロジーで解決すべきではないかと常々考えています」(関さん)。

この悩みはどの職種でも一緒だろう。その瞬間は理解できたつもりだったが、後でよく考えてみたらまったく理解してなかった――なんていうことは珍しくない。それをAIの力で何とか解決できないかというわけだ。「AIは何度聞いても決して怒らない(笑)。いわれてみれば納得感がありました。怖い先輩や上司は会社にまだまだいますから」と関さん。

企業におけるChatGPTの導入はまだまだ手探りだ。関さんは「導入したというニュースはよく見かけますが、それで何をしようとしているのか、どこをゴールにしているか見えないケースが目立ちます。僕たちはそれを明確にしながら、特定のセグメントのお客さまに深く刺さるようなAIをしっかりつくっていきたいですね」と話している。

企業のAI担当者は、まず自分で触って試してみよう

世界中の企業はいま、ChatGPTをはじめとする生成AIの利活用に躍起になって取り組んでいるといって過言ではないだろう。AI関連ビジネスの未来は一見明るそうだが、関さんは冷静に捉えている。

「ビジネス開発という観点では、条件によってはわりと早く幻滅期が来る可能性があると思っています。手段が目的化している現状がこのまま進むようでは、結局『ChatGPTって使えないよね』ということになる」と関さん。

そうならないためには、どうしたらよいのか。関さんは2つの方向で提言があるという。1つは生成AIの導入担当者(若い人)へ、もう1つは企業トップを含めたマネジメント層へ向けた提言である。

導入担当の若い人に向けては「他人の話を聞いたり本を読んでる暇があったら、まずは生成AIで何ができるかを自分で試す」ということである。

「これは社内でもいっているのですが、シンプルに百聞は一見に如かず。SNSなどでは、いろいろな人がさまざまなことをいっています。まずは自分で触ってみて、本当にすごいのか実は大したことはないのか。この人こんなこといってるけど、こんな使い方した方が付加価値あるかも――なんていうアイデアがどんどん出てくるはず。極論、この私の記事も読んでる暇があったらとにかく日進月歩で出て来る新しい技術を自分ゴトとして試して欲しいですね。バズってるけど、実際使ってみたら全然思い通りの動作をしてくれず、問題だらけ、ということも珍しくありません。まずは試す。そう強く思います」。

生成AIの進化スピードが、とにかくはやいのだ。2023年春以降でも、Metaが次世代のオープンソース大規模言語モデル「Llama 2」を発表。その前に、音声や画像などの複数のデータを統合して扱う「マルチモーダルモデル」の話題があった。OpenAIはマルチモーダル機能の提供を公開していないが2024年ぐらいに公開する噂はある。

マルチモーダルモデルをGoogleが先に出した。『Google Bard』だ。日本語が未設定なので現状では日本リージョンで使えない。ChatGPTの追加機能『Code Interpreter』(コードインタープリター)。CSVなどのファイルを入力すると、それに基づいて予測モデルを作ってくれる。

「経験の浅いデータサイエンティストがやっていた仕事は、それにやらせればいいという感じになってしまいました。一方で、企業が置かれた文脈や深いDomain Knowledgeに基づいた提言を行うという付加価値は人間のプロフェッショナルならでは。こういうのも、自分で触らないとわからないと思います」と関さん。

マネジメントはAIでビジョンを実現する仮説&ストーリーを持つ

もう1つ、トップを含むマネジメント層に向けては、「生成AI導入によって自社のビジョンをどう実現していくのか、その仮説を持つこと」である。短絡的にAIは何でもできると思って「あとよろしく」とばかりに丸投げするマネジメントはよくいるという。関さんによると、それは取り組みが失敗する最初の階段を登ったことに他ならないという。

「テクノロジーは何のためにあるかというと、ある意味で会社の究極的なビジョンを実現するためでしょう。本来、技術とはその壮大な目標を実現するための促進剤です。ビジョン実現のために、この新しい技術をどう使っていくのか。その仮説やプロセスストーリーをトップが持ってないと」と関さんは力説する。

「担当者がChatGPT使って何かやれって指示されて、僕らのようなところに相談に来て、がんばって全員が使える環境だけはできた。ユーザーの一般社員は何のために使えばいいかわからない。そんな現状でも『ChatGPT導入』とプレス発表をすると、何となく株価にいい影響を与え、先進企業っぽいイメージを醸成できる―――あくまでイメージですが、それで満足するのは本末転倒でしょう。HEROZは何年も前からAI領域にフォーカスしているので、2018年頃の深層学習ブームの時も同じような空気感を経験してきました。今、企業のDXの中核を担っている深層学習モデルはどれだけ稼働しているでしょうか」(関さん)。

一方で、上手く生成AI導入を進めるケースはあるのだろうか。関さんはDX推進の文脈を使って次のように説明する。

「DX担当部署の方と話す機会が多いのですが、上手くいっている会社とそうでもない会社には明確に違いがあります。上手くいっている会社は、カウンターパートの人が自社の現場をどう使うかという点を深く考えていますね。その結果として、自分なりの仮説を持って『これどうでしょう?』という感じでコミュニケーションが始まります」。

「一方の上手くいかない会社、数回のディスカッションだけで終わったり、PoC(Proof of Concept=概念実証)はやったけど進まなかったようなケースでは、会社のDX部門が、いわばIT部門とニアリーコールで、社内の調整役にだけなっていることが多いですね。これは仮説の解像度が粗いのが原因です。AIに任せれば何でもできる、というドラえもんのような過度な期待を寄せられ、めちゃくちゃ短期的に実用的なSolutionの実現を期待されてしまうこともあります。その場合、期待値のギャップを埋めることが難しかったり、そもそも何を期待していたのかちゃんとゴールを設定できていないことが多い印象です」。

生成AIの進化は新しいコラボレーションの在り方も生み出す

関さんの指摘は、正直で手厳しい。しかし、その厳しい目は自社の取り組みにも向けられている。

「自分の手で早く失敗するのは大事。失敗から必ず学べるから。テックドリブンのカルチャーとして深く根付かしたいのはそこです。プロジェクトベースだと失敗しないように仕事を進められます。できるPMほどそうで、目指すゴールがしっかり見えています。生成AIの世界はちょっと違う。まだまだわからないことばかり。わからないからこそ、思いがけない発見があります。“やってみて深掘りして”というプロセスを、Solution型の事業ではあまり経験できない。僕も含めてね」と関さん。

だからこそ、それぞれの専門性を持ち寄った協働チームが必要なのだ。確かに生成AIの世界は専門性が高く進化のスピードがとてつもなく速い。そこで「わからないからよろしく」ではなく、もう一段階歩み寄って価値創造のプロセスを共有することが大事なのだろう。それはHEROZ内でも同じだ。

「お客さまが何に困っているのか、ユースケースをどうやって設計していくのかという点は、我々よりも日ごろお客さまと相対しているコンサルタントや、実際の案件に入っているエンジニアの方が理解しています。その協働チームが立てた仮説は深くなる。お客さまとの一体感も出てきます」(関さん)。

顧客企業とHEROZがそれぞれの専門性を持ち寄り、価値創造のプロセスを試行錯誤しながら一緒にゴールを見つけ出す。生成AIの進化は、企業同士の新しいコラボレーションの在り方も生み出すのかもしれない。

関享太(せき・きょうた)氏
HEROZ株式会社LLM戦略担当執行役員。2010年、東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。パナソニックで研究開発、海外マーケティングなどを経験した後、2014年にデロイト トーマツ コンサルティングに転職。新規事業戦略策定などのプロジェクトに数多く携わる。2018年6月にHEROZ参画。2021年8月、当社執行役員(現任)。

(テキスト:小島淳/写真撮影:奈良則孝/ディレクション・編集:データのじかん編集部 田川薫)

   

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