ペストや天然痘、コレラの世界的な流行を繰り返す中で、思いがけない発見が生まれたこともありました。その最も有名な例として、イギリスの科学者、アイザック・ニュートンによる重力理論の発見が挙げられます。
ロンドンで腺ペストが大流行した当時、ケンブリッジ大学の学生だったニュートンは、大学の休校を受けて、実家のリンカーンシャーに身を寄せ、研究を行っていました。そしてその期間に、木から落下するりんごを見て、「慣性の法則」、「加速度の法則」、「作用・反作用の法則」の三つの運動法則を閃いたということです。その後、この成果を『Philosophiae Naturalis Principia Mathematica(自然哲学の数学的諸原理:通称、プリンキピア)』という本にまとめています。
その他にも、ニュートンが、流率法(Method of Fluxions)と呼んだ「微分積分学」の基礎となる研究や、プリズムでの分光の実験など、彼にとって主要な業績のほとんどを休学期間中に成し遂げました。そして、この期間のことをニュートン自身は「創造的休暇」と評したそうです。
また芸術の分野でも「メメント・モリ(死を忘れることなかれ)」という言葉をモチーフにした絵画や小説が生み出されました。その中には、カミュの『ペスト』のように今なお読み、語り継がれる名作となっているものも多くあります。
近代に入ると、公衆衛生技術の発達でペストなどの流行は抑え込めるようになりました。一方で、猛威を振るうようになったのがインフルエンザです。造船技術の向上や鉄道、飛行機や車の登場に伴い、人々の移動のスピードが高速かつ多量になるにつれて、感染拡大のスピードはどんどんと早くなっていったのです。
特に1918年から1920年にかけて流行したインフルエンザはスペインを流行の中心としたことからスペイン風邪、と呼ばれ、推計で世界6億人に感染、数千万人規模の死者を出しました。しかし、医療の発達も手伝い、パンデミックの最中で、ワクチンの開発、接種が行われ、死者数の抑制の一助となったと言います。
また、度々エピデミックを引き起こしてきた天然痘も18世紀には安全性の高い牛から摂取した種痘(牛痘)によるワクチンが開発され、世界中にワクチン摂取が拡大していきました。さらに、1948年に国連のもと、世界保健機関 (WHO) が立ち上がり、1958年に「世界天然痘根絶決議」が可決されると、ワクチン摂取が遅れていたアフリカなどでも摂取が加速。1977年以降患者が確認されなくなり、事実上、天然痘は根絶され、1980年には、WHO総会で天然痘の撲滅が正式に宣言されました。
技術の発達とともにウイルス感染の拡大と押さえ込みを繰り返し乗り越えてきた人類。
今まさに直面しているパンデミックがどのように収束していくのかはまだ予想はつきませんが、このパンデミック期間も、人々は何かを生み出したり、新たな発見をしたりし続けることでしょう。
そうして生まれたものや技術を、人々が純粋に楽しめるようになるのはまだ先かもしれませんが、その未来はきっと明るいものだとただ信じています。
【引用参考文献・サイト】 ・ Difference Between an Epidemic and a Pandemic ・ アイザック・ニュートン、業績と人物 ・ 「アイスマンにピロリ菌発見」が意味すること ・ 日本におけるスペインかぜの精密分析 ・ アイザック・ニュートン - Wikipedia ・ パンデミック - Wikipedia ・ 天然痘(痘そう)とは - 厚生労働省-戸山研究庁舎 ・ トゥキュディデス(訳:小西晴雄)『歴史 上』 ・ 石弘之『感染症の歴史』
(大藤ヨシヲ)
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