小泉:つづいてのデータは「出荷前検査状況のデータ化・検査工程の自動化などの実施状況」です。実施している企業と実施予定がある企業を合計しても20%にも満たないのが現状ですね。ここで東芝メモリ様の出荷前検査のデータ化の実例について福本さんにお伺いしましょう。
福本:四日市の半導体工場の出荷前検査を自動化し、歩留まり率・速度を高めました。約5,000台の製造装置から得られる1日20億件のデータをディープラーニングでAIに学習させ、人間がやっていた仕事を肩代わりさせたわけです。その結果、欠陥検査の正答率は約83%に到達し不良原因の推定時間も以前の6時間超から2時間以内に収まるようになりました。この試みが評価されて2016年には人工知能学会現場イノベーション賞をいただいています。
小泉:すでに自動化が進んでいるためIoTの成果が表れづらいと言われる半導体系の工場でもディープラーニングでここまでの成果が出せるんですね。金融業界としてはこうした技術をどう生かせるでしょう、松浦さん?
松浦:生産性が高まるという意味では大いに意味がありますね。ただ、とにかく金融サイドは企業に儲かっていただくのが大事です。中間指標として生産性なども大切ですが、最終的には経営に反映されてファイナンスが向上することが重要なんですね。
小泉:投資家からすると企業の内部状況がわからないから投資できないということもあるんでしょうか?
松浦:あります。私はもともと銀行員だったのですが、工場を視察しても正直なところ良い工場なのか悪い工場なのかを門外漢が現場で見抜くのは難しいです。しかしデータとして統計数値が見られれば判断は容易になります。前半でiSTC社の取り組みとして挙げられていたように業績と工場データの相関がわかれば、それをベンチマークとして融資も考えやすくなるでしょう。
大畠:ベンダー側からみたところ、データ活用に積極的なのは比較的若手の人材なんですよね。経営層になるほど「それで最終的に売上はあがるのか?」という目線に重きが置かれます。データ化することでどう業績が向上するのかがわかることは、経営層の同意を得るためにも重要ですね。PoCまで到達したものの経営への効果が疑われて会社のGOがでない「マネジメント層の壁」は日本のデジタルトランスフォーメーションをのために乗り越えるべき課題です。
松浦:それは大事な視点ですね。iSTC社のIoT化が経営効果に直結するロジックに裏付けられているのは、木村社長という製造業の経営者とIoTのサプライヤーを股にかける人材が率いる企業ならではですよね。
木村:iSTC社のスローガンは「人には付加価値の高い仕事を」です。改善や発想につながる作業は人間がやる意味がありますが、検査は製品の変化につながらないですよね。そういった作業は機械に置き換えて人間には別の仕事をやってもらう。そのメリットは経営にも直結するはずです。
小泉:つづいてのデータは日本の製造業の国内・海外における設備投資額の推移です。2015年までは国内・海外投資ともに伸びていたのが、国内投資に傾いた。しかし、2017年からまた海外投資も伸び始めています。このような動向についてどう思われますか、福本さん?
福本:国内回帰が起こっている原因は2つあって、ひとつは海外における人件費の高まり、もうひとつはデジタル化による技術流出への警戒です。ドイツのインダストリー4.0のように付加価値の高い仕事以外はすべてデジタル化して機械にやってもらおうという動きが進むと、製造プロセスがコピー可能になるんですね。
小泉:現場にもよるはずですが、組立て工場などであればコピーは比較的しやすいでしょうね。フォルクスワーゲンがシーメンスと協力して工場のクラウド統合管理を進めています。
福本:個々の作業だけでなく受発注関係や冷却水の供給などつながりすべてがデジタル化できれば工場全体を再現することは可能です。実現できればよそがコピーしやすくなるのは事実でしょう。しかし、それ以上に自社の生産性が高まり、少ない人数で多くの製品を生み出せるようになるはずです。生産年齢人口が減っていく日本では工場のデジタル化に積極的に対応していくべきでしょう。
小泉:ウイングアーク1stはアジア展開も進めていますよね。大畠さんは、現在製造業の国内回帰と海外進出が同時に進んでいることについてどう思われますか?
大畠:先日上海の製造現場を視察してきました。そこで感じたのは、データを見ることにすごく関心が高まっているということですね。現在のところ、日本に比べて工場のデジタル化は遅れていましたが、今後中国では急速に製造業のデータ活用が進んでいくことでしょう。
小泉:そんななかでウイングアーク1stはどのような方針をとりますか?
大畠:現時点では日本のデジタル環境のほうが進んでいますから、国内でやっていたことを愚直に展開していきたいと思います。ただ、中国ではやるとなったら機械自体を全部入れ替えてしまうなどとにかくスピード感がありますから、発展のスピードは脅威に感じますね。
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