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もはやベッドタウンは“住みたい理由”ではない。人口減少に挑む自治体が、耳を傾けた『声』とは?

         

「2015年国勢調査」で、日本が本格的な人口減少社会に突入したことが確認されたニュースは大きな話題となった。そのデータを詳しく見ると、地域別人口での二極化が加速していることが分かる。つまり、人口減少が加速化している地域と都市回帰による都心部への人口集中の動きだ。福岡市、仙台市、名古屋市など人口増加が目立つ自治体では、周辺郊外都市の人口も増加している。しかし、かつて都心のベッドタウンとして発展してきた自治体の中には、減少に転じている例も多い。その明暗を分けているのは何か? 多くの自治体が、自らに問いかけている。福岡県糟屋郡かすやぐん篠栗町ささぐりまちでは、2015年、「地方人口ビジョン・総合戦略」として「篠栗町まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定。住民転出の要素を洗い出し、転入促進につなげる出産・子育て支援の充実を盛り込み、「コミュニティを重視した」魅力ある住環境開発の促進を進めている。しかし、施策に“裏づけ”となる根拠はあるのか? 地域住民との合意形成はできるのか? 効果はどのように把握できるのか? 篠栗町の選択は、「思っていた」「感じていた」ではなく、行政が市民の課題と施策の効果を把握できる方法だった。

「思っていた」「何となく実感」では行政は動けない。

篠栗町は、総面積の約7割に山林が広がる自然豊かな地域だが、福岡中心部から車で15分、博多駅からJRで20分という交通の便の良さから福岡市のベッドタウンとして発展してきた。実際、2000年代初頭までは右肩上がりの人口増を続け、現在、町の人口は3万1,000人を超えている。2009年からは減少傾向に転じ、全国同様の少子高齢化による影響もあるが、篠栗町が独自に懸念しているのが、2004年以降、町からの転出数が転入数を上回る年が多くなっていることだ。

将来の人口展望

「篠栗町を離れていくのはどのような住民なのかを知るためです。すると引っ越し先は、近隣の市や町で、新しく建ったマンションや開発された宅地でした。小学校就学前のお子さんのいる家庭が多く。それは、思っていた以上の数字でした」(熊谷氏)
若い世帯の転出が増えている。そう「思っていた」のは、他の職員も同様だった。誰もが「何となく実感」していた危機感が明確になったが、1回のアンケート調査では、施策を打ち出すほどの“裏づけ”にはならない。どの地区の住民の転出が多いのかを、定量的に把握することも難しかったと言う。
「役場内の各課には具体的で有益なデータが蓄積されています。しかし、それを横串で見る仕組みがないため、転出理由を多角的に分析することもできませんでした」(熊谷氏)

行政の施策に数値目標が設定できるようになった。

篠栗町では、2015年に「篠栗町まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定。基本目標の1つに「若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる」を掲げた。その具現化のために定量的な指標と目標を設定。子育て世帯の「移住並びに定住化」を進め、「300世帯の増加」を目指す。これはKPI(重要業績評価指標)を行政の施策に取り入れたもので、その達成には、実態の“見える化”が欠かせない。
役場内にある「有益なデータ」、つまり、住民基本台帳、福祉、保育、医療制度、税関連、財務会計などの情報を一元化して把握できるようにすることで、効果の実態が分析できる。たとえば“子育てに適した環境づくり”も従来は、具体的な対象者がハッキリしていなかった。 「キッズコーナーの設置計画について、その地域の子ども数がすぐに確認できる。母数がわかってはじめて利用率が予測でき、効果が確認できます。こうしたことは、これまで各担当者の経験や感覚に頼っていました。これを人口推移のデータと紐付け分析することができます」(熊谷氏)
職員の「なんとなく実感」が、「なぜそうなったのか」に変わった。それを熊谷氏は「住民の“声なき声”」だと言う。行政データの中にあった住民の“声”に耳を傾け、それを明確な根拠としてこそコミュニティづくりの合意形成が可能になる。これからの地方創生に欠かせない行政と住民との協働に向けた大きな1歩を篠栗町は踏み出した。

 
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