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会社が成長し、組織体制も整ってきた。……ただ、最近他部署との交流がめっきり少なくなったような……。
そう感じるとき、貴社では「サイロ・エフェクト(タコツボ化)」が起こっているかもしれません。
ソニーの衰退、リーマンショックの引き金となったサブプライム危機……。さまざまな社会・組織の危機にサイロ・エフェクトは関わってきました。
その概要や引き起こした事件、有効な対策法といった重要ポイントを本記事で押さえておきましょう。厄介なサイロから抜け出す第一歩は、その存在に気づくことです。
サイロ・エフェクトとは「ある組織が内部で分断され、視野狭窄に陥ってしまう現象」を指します。日本になじみやすい言い方をすると“タコツボ化”となるでしょう。対象となる組織は企業や公的機関から国まで広範囲です。
サイロとは飼料を蓄えておくためにつくられた円筒状の貯蔵庫のこと。その内部と外部が分断された不干渉性が組織の分断の例えに用いられています。タコツボも同様の構造ですね。
サイロ・エフェクトは組織の巨大化に伴って生じやすくなります。特に人間が社会的絆を維持できる人数の限界、ダンバー数(150名程度)以上に組織の人数が膨らむとサイロ・エフェクトは生じやすいといわれています。
サイロは組織内で無意識に世界の捉え方(分類方法)が固定化されることによって生じます。暗黙知をもとに“察する”ことが求められるハイコンテクスト文化の国、日本。特にサイロ・エフェクトの発生に気をつけるべき環境だといえるでしょう。
サイロ・エフェクトの概要はわかったものの、実際にどんな被害が生じるのかはちんぷんかんぷんだ、という方は少なくないでしょう。
ソニー衰退、サブプライム危機を題材にサイロ・エフェクトがもたらした被害を確かめてみましょう。
最初に紹介するのはソニーで起こったサイロ・エフェクトです。
ウォークマン、プレイステーションなど画期的な商品をヒットさせ2000年には過去最高である1万6,590円という株価を記録したソニー。しかしITバブル崩壊をきっかけに収益力は低下し2003年には連結最終利益が大幅な赤字に。ソニーショックと呼ばれる事態にまで陥りました。
出典:「ソニーショック」も記憶の彼方、株価が17年ぶり高値に-半導体好調┃Bloomberg
その原因に、1990年代大賀典雄CEO下で進められた企業のサイロ化があったと『サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠』著者のジリアン・テットはいいます。1994年、もともと単一の企業体だった事業部門を8つの部門に分割したソニー。当初効率化が進んだように思われましたが各部門で情報の抱え込みや競い合いが生じ、企業全体としての戦略を描けない自体に陥りました。
現在同社の株価が回復傾向にあるのは、危機を経て一枚岩の体制を取り直しつつあるからかもしれません。
リスクの高い債務者に過剰な住宅ローン貸し込みを行い、多額の不良債権を抱えることとなった金融機関が破綻、世界同時株安にまで発展したサブプライム危機。その際、スイス最大の銀行UBSや英国の中央銀行イングランド銀行も大きな打撃を受けました。
優秀な人材を多く抱える巨大組織でありリスクを嫌う傾向にあったこれらの金融機関が、高リスクな金融商品に多額の投資を行ってしまった背景にもサイロ・エフェクトがあります。
UBSの各事業部門はソニーと同じく分断されており、さらに上層部と現場、ニューヨークとロンドンのトレーダーも情報を共有できていませんでした。英国の優秀な経済学者と銀行を規制する機関の間には隔たりがあり、気づいてみれば明らかなリスクが見逃されました。
“理論上自分たちは99%安全だ”と思われるときこそ、単独では見えない危機が迫っているかもしれないと、彼らは考えてみるべきだったのです。
最後にサイロ・エフェクト解消もしくは未然に防ぐためにとれる手段をご紹介します。
サイロが生じる原因の筆頭が、部署・部門というシステムによる組織の分断です。とはいえ、目的ごとにチームを区分けしなければ効率よく仕事を進めることは不可能でしょう。そこで、普段の業務とは違う「目的」を与えて企業内に新たなチームひいては人間関係を生み出す仕組みが有効となるです。
例えばサイロ・エフェクト対策の先進企業、Facebook社では入社直後の新人は年齢・職位を問わず6週間の新人研修に参加するよう定められているそうです。そこで通常のプロジェクトチームと異なる交流を促すわけですね。また、同社では定期的にハッカソンが開かれ、部署の壁を越えたつながりが生み出されています。
職場が物理的に分断されることは、心理的なサイロの構築に直結します。そのため、部署間を分厚い壁やガラスで分断し、交流を断ってしまうような職場設計は改善すべきです。ただし、仕切りが全くないなどあまりにオープンな環境は逆に生産性を下げるという研究結果もあります。
従来通り仕事に集中できるデスクは用意したうえで、カフェスペースや広場のような“交流のための場”を用意するのが理想的でしょう。
またSNSや社内チャットでのコミュニケーションを促すのもひとつの手です。誰かが率先して自身の想いやプライベートを開示することで、全社的な交流が促進されます。
強固なサイロがすでに築かれている場合は、組織の体系自体を見直す必要があるかもしれません。絶対的と思っていた分類は、サイロに阻まれて気づけていなかっただけで不適切だったという場合もあります。
2013年にUSニューズ&ワールドレポート誌の患者満足度調査で米国内一位を獲得したクリーブランド・クリニックは、なんとサイロを破壊するために内科/外科という最も基礎的な病院の組織構造を取り払いました。その代わりに脳疾患、がんなど提供する医療に基づいて診療科を設置したのです。すると以前最下位だった患者満足度はトップに繰り上がり、技術力の評価も高まったといいます。患者ファーストの分類が好評を受けたことに加え、診療科間の交流が深まったことでノウハウが共有され、結果として全体の質が高まりました。
同クリニックにはオバマ元米国大統領も賛辞を贈ったということです。
サイロ・エフェクトの脅威とその対策についてご紹介しました。
組織が成長すれば、全体を見渡すことは不可能になります。そのため、ある程度サイロに分かれてしまうことは逃れ得ないことかもしれません。
しかし、その脅威を正しく認識し対策を講じなければかつてのソニーやUBSのように深い落とし穴にハマってしまいます。部署間の会話が最近少ない、ほかの部門が何をしているのかイマイチわからないと思ったら、一度組織全体を見つめなおすべきでしょう。都合よく「部署同士の競い合いで効率が高まる」などと考えないようにご注意を。
(宮田文机)
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