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2019年12/3(火)4(水)、ついに日本でもカスタマーサクセスにフォーカスしたイベント『SUCCESS 4』が開催されました。
主催者は『カスタマーサクセスとは何か』(通称赤本)の著者として知られる起業家、弘子 ラザヴィ氏(以前の講演レポートはコチラ)。スピーカーは『キャズム』著者のジェフリー・ムーア氏、『カスタマーサクセス』(通称青本)の著者ダン・スタインマン氏ら豪華面々です。日本からはウイングアーク1stやBox Japan、メルカリ……など、カスタマーサクセス実践企業の代表者やカスタマーサクセスマネージャーが登壇しました。
大企業・中小企業を問わずもの売る企業すべての最重要トピックのひとつ、カスタマーサクセス。その最新事情を追うことは、ビジネスの今とこれからを知ることにほかなりません。
早速、12/4(水)の一日を約3,500字に圧縮した同イベントのハイライトをご覧ください!
午前9:00にスタートした同イベント。開始直後から2FのVIPフロアステージ1は超満員の状態でした。
それもそのはず。9:20から「キャズム」理論を提唱したことで知られるジェフリームーアコンサルティング プリンシパル ジェフリー・ムーア氏のスペシャルセッションが予定されていたのです。
「20世紀は需要が供給を上回る時代だった」とムーア氏。
品質の高い製品を生み出しカスタマー(顧客)のもとへ配達するまでが企業のミッションでした。しかし、21世紀には供給が需要を上回り市場原理は破壊的変化に見舞われます。そうして重要になったのが“顧客との関係を維持すること”。デジタル環境が発達した現代、顧客はいつでも製品から手を引く(チャーン)ことができるのですから。
Salesforce、Facebook、Netflix、Amazon……。これらの企業は顧客の声を聞きエンゲージメントを高めることに力を入れています。自分たちもそれらの企業のように前に進めているのか? 考えて見て欲しいとムーア氏。その指標として18カ月単位で変化のどのフェーズにいたいかを考える手法が紹介されました。
セッション後半のテーマは、「ゾーンマネジメント」。
企業活動を「新規事業の創出(インキュベーション・ゾーン)」「新規事業の拡大(トランスフォーメーション・ゾーン)」「既存事業の維持(パフォーマンス・ゾーン)」「生産性の向上(プロダクティビティ・ゾーン)」の4領域にわけてそれぞれで異なるアプローチを行う考え方です。
カスタマーサクセスも4つのゾーンごとにミッションが異なります。例えばプロダクティビティ・ゾーンでは営業効率を高めるための顧客分析、パフォーマンス・ゾーンでは契約更新タイミングにおけるアップセル(より上位の製品を買ってもらうこと)創出の役割を担うことに。
カスタマーサクセスは顧客と開発部門のかけはしであるだけでなく、教師のように顧客を支え新しいステージに連れていく役割さえ担うのです。その重要性は高まり、エグゼクティブから現場へと役割のすそ野を広げています。
12/4(水)、『SUCCESS 4』のセッションは2つのフロアで行われており、B1Fのメインフロアはカスタマーサクセス実践者・実践予定者、2FのVIPフロアは経営者・事業責任者に向けた場となっていました。また、メインフロアでは協賛企業の話を聞けるブース出展も。
実践者・実践予定者向けのセッションは企業が直面した課題に対する具体的な取り組みが知れる場です。
例えば「カスタマーサクセスの日本へのローカライズ」という課題をテーマに話したのがBox Japanのカスタマーサクセスマネージャー西田幸弘氏。『GO Global & Go Local』と題した同セッションでは単にUSの資料を翻訳しただけでは越えられない日本と海外の文化の壁を破るための取り組みが語られました。
とにかくハイコンテクスト(文脈依存的)な日本の文化。欧米と違い顔を合わせることがカスタマーとの関係形成の基本となっています。
そこでユーザー会やウェビナー(ウェブセミナー)でワークショップやノウハウ提供、ユースケース共有を行っていると西田氏。ポイントは施策や実行法を日本向けにローカライズし、ビジョンや目標はグローバルで統一することだそうです。
2FのVIPフロアの経営者・事業責任者向けセッションは、より俯瞰的にビジネス構造の変化について取り上げられる場となっていました。
『お客様の声を正しく聞けば。事業経営はうまくいく』と題したセッションにおいて、メルカリ 取締役/メルカリジャパン CEO 田面木(たものき)宏尚氏は「個の時代」が到来したと主張します。
SNSやブログ経由で一個人の意見が全世界に届けられうるデジタル時代。VOC(お客様の声)を正しく聞くには「全部署の連携」が不可欠だ、と田面木氏。そのために以下のような施策を実施しているといいます。
月一回のVOCミーティングではお問い合わせ内容を全社で共有したうえで、打ち手を策定し「やる/やらない」を判断する段階まで議論を進めるとのこと。
VOCを社内に伝えても具体的な行動につなげてもらえないという課題をカスタマーサクセスは抱えがちです。
「だからこそ社内浸透に向けての施策はしつこいほどやる」と田面木氏は語りました。
「99%カスタマーサクセスの話はしません」といってセッションを開始したのはKaizen Platform CEOの須藤憲司氏。会場はB1Fメインフロアです。
須藤氏がまず掲げたトピックは「サブスクリプションの原罪」。サブスクリプションサービスは世界で勃興しており、エンタメ/コンテンツ領域はすでに陣地の取り合い状態です。今後もサプリやシャンプー、お菓子など幅広い領域に広がるだろうとのこと。
その理由のひとつが将来の収益が予測しやすいため株価引き上げにつながりやすいから。つまり「我々の時価総額は未来の利益から成り立っている」と須藤氏はピーター・ティール著『ゼロ・トゥ・ワン』を引用して主張します。
しかし、実際のところ日本経済の未来予測は決して明るいものではありません。人口減少、少子高齢化、実質賃金の低下……。
そういった事情を考えると憂鬱になりますね、と須藤氏。それでも未来の利益を得るために取れる手段は「事業領域を広げる」「グローバル化を進める」の2つだといいます。しかし、未踏の領域に踏み込むには大変なコストがかかります。そのうえ他業種の上位企業やグローバル企業が競合として目の前に立ちはだかるのです。
この苦境ですべきなのは何か?
「本当のカスタマーサクセスとは何か考え続けること」だと須藤氏はいいます。VUCAといわれる不確実な時代、OODAループに象徴されるように企業は最速で環境に適応する必要があります。そんななか変化のコンパスとなるのが「カスタマーサクセス」なのです。
イベント最後の登壇者はGainsight EMEA ジェネラルマネージャーでカスタマーサクセス職のバイブルともいわれる青本『カスタマーサクセス』を著したダン・スタインマン氏です。
スタインマン氏はカスタマーサクセスを上記の等式でまとめます。顧客に満足と成果を届け、製品の価値を最大化する。そうすれば企業の価値も最大化されるとスタインマン氏は強調します。
この数十年、ベンダーと顧客の力関係の天秤はどんどん顧客に傾きました。情報が簡単に取得できるため、カスタマーサクセスが実現できなければ簡単に顧客は離れてしまいます。反対に実現できれば、アドボカシー(口コミ)・マーケティングによりほかの顧客を連れてきてくれるかもしれません。
時勢の変化に世界は敏感です。LinkedInにおけるカスタマーサクセスの求人は2017年~2018年で84%増加しました。テクノロジー企業だけでなく、ヘルスケアやメディア、医療といった分野でも大幅に増えているそうです。
これからの時代には既存顧客の価値を最大化しなければ企業は成功できない。『SaaSを超えて世界現象となったカスタマーサクセスの未来』と題したクロージングセッションではこのようにしてカスタマーサクセスの価値が高まりゆく現状が解説されました。
日本ではまだまだカスタマーサクセスが浸透しきっていない。
筆者が足を運んだセッションのいくつかでそのような課題感が語られました。確かに世界最大のカスタマーサクセスカンファレンス『Pulse』は2013年から開催されているのに対し、『Success4』は今年が初めて。その年数分日本が後れを取っていることは否めません。
しかし、だからこそ今カスタマーサクセスに取り組んだ企業は行列の先頭を行くことができるはず。すでにカスタマーサクセスについて勉強中という方は他社(者)をリードしています。そのまま知見を広げましょう! 本記事でカスタマーサクセスを初めて知ったという方は本メディアや記事で登場した書籍を手がかりに、ぜひカスタマーサクセスに入門してください。
そうして得たノウハウは遠からず役立つことになるでしょう。
(宮田文机)
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