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「デジタルファースト」が当たり前になりつつある中で、生活者の購買行動も大きく変化している。B2Bも同様だ。Webによって情報収集から購買の意思決定までが可能になり、従来のようなフィールドセールスが介在する余地がなくなりつつある。インサイドセールスへの移行もその流れに追い打ちをかけている。
そうした中、「インサイドセールスやカスタマーサクセスチーム、エンジニアなど、あらゆるチームの力を結集させ、最終的に前線でお客様に価値を提供できるのは営業しかいない」と語り、自らが統率するアカウントセールスチームで大きな実績を挙げる株式会社ユーザベースの伊藤氏に、これからの「ソリューション営業」の可能性と目指すべき方向を伺った。

「勘と根性」は過去の遺物。「脳」との合わせ技で勝ち取る

「営業」というと、「勘と根性」、すなわち個人の努力と資質によるもの、というイメージがつきまとうが、伊藤氏は「経験値そのものの大切さは否定しませんが、所詮1人の営業担当者にできることは限られています。期待・評価され続ける営業になるには、個人の勘や知見をどれだけ組織のナレッジとして集積し、組織・連携で実践できる戦略に昇華させるかにかかっています。また、営業のスタイルや方法論は、時代やマーケットの変化に合わせて変えていかなくてはなりません」と言う。

伊藤氏が率いているソリューション営業チームでは、顧客のターゲットや営業のキャスティングを半年に一度見直し続けている。鳥の目・虫の目・魚の目で変化をいち早く見極め、顧客に価値が届きやすい戦略・戦術に組み直していく。そうした複雑ながらも柔軟で創造的な思考と判断は、誰よりも顧客を知り、思考できる営業にしかできない高度な役割だと伊藤氏は強調する。

「マーケットの現場から得た知見やノウハウ、洞察を組織の力にまで昇華していけるのは、やはり人間しかいません。簡単にAIなどで置き換えられるものではなく、この先も当分変わらないでしょう。デジタルを活用するならば、むしろ人間が行うプロセスにデジタルツールを組み込んでスピードを上げる、仮説の確からしさを検証するといった、人間の力とデジタルの“合わせ技”を目指すべきだと思います」

これまで通り足で稼ぐセールスは大切。だが、それをただ続けていても進化しない。ナレッジをデータとして蓄積・活用し、重要な局面における判断や方向性選択の根拠とする。その意味で、「ただ頑張るだけの昔ながらの営業」は終わりにしなければならない、と伊藤氏は説く。

徹底した「お客様の価値」追求で
SaaS営業のアプローチを科学する
 

「脳と足とデータ」の三位一体による営業を伊藤氏は自らのチームで実践し、大きな成果を挙げている。ユーザベースの主力事業の一つであり、世界中の経済情報(産業分析レポート・企業の財務/非財務データ・ニュース・統計・M&A案件等)をワンストップに提供する「SPEEDA(スピーダ)」は、今や国内のさまざまな業種の企業1,100社以上に導入されている。だが、伊藤氏が入社したわずか3年前は、ユーザーの8~9割が金融機関とプロフェッショナルファームに限られていたという。

「限定された業種向け中心のツールだったのが、ここ3年で6~7割はそれ以外の業種で占められる状態になりました。また市場影響力の高さを示す指標の一例ですが、導入先も当時時価総額ランキングトップ100社の3割程度だったものが、現在は7割にまで達しています」

売り切り型ではなく、半永久的に価値を届け続けることが至上命題であるSaaSのアカウントセールスだからこそ、まさに「脳と足とデータ」の営業が重要になる。

最初の半年間は足。とにかく事業会社のどんなお客様にSPEEDAが貢献できるのか、商談を通じて相場観を磨いた。それまでには企画部門や営業部門、および製造業やSIerなど、ある程度の属性は兆しとしてわかっていたものの、まだ粒度が粗すぎた。グローバルに事業成長・変革を仕掛ける、とあるニーズ条件が顕在化したお客様には、SPEEDAの価値が届きやすい等、段階的に共通項を見極めていった。伊藤氏のチームでは、伊藤氏が考えた「タイル戦略」というフレームワークに基づき、SPEEDA自体やSFA等の過去蓄積情報も含めてデータを活用し、上述ターゲットの法人名・部門名まで、詳細に絞り込んで、その開拓の仕方まで決めていった。まさに、足で稼いだ情報とデータファクトを繋ぐ「脳」の部分だ。自社のサービス価値が期待・評価され得る先と、その貢献の仕方さえ仮説を持てば、売り込む姿勢ではなく、自然とお客様に選ばれ、活用し続けていただけるwin-winの提案・共鳴ができる。まさにABMを超えた究極の1to1ターゲティングである。

その戦術シナリオも「部門開拓型」「子会社紹介型」「アップセル型」などターゲットの属性によって使い分けている。この概念を導入・チーム実践した結果、特定の120法人グループを担当するソリューション営業チームとして、売上成長させながら、受注率1.5倍、営業生産性2倍を実現。さらにまだまだ個社深耕を広げ得る新たなターゲット属性も発掘し続けている。

社外に目を向ける。そのための独自の価値基準を養う

では、「勘と根性の営業」を脱却したい、個人の頑張りからチームワークで成長を実現するソリューション営業に変わっていきたいと考えた場合、具体的にどこから始めればよいのだろう。伊藤氏は「意識を外へ向けよう」「自分なりの意志を持とう」、この2つに尽きると断言する。

「課題解決のために上司や先輩に相談するのは当然ですが、実は社内から見つかる情報は限定的です。私自身、若い頃から先輩に相談するよりも、お客様に訊いたり、外部の関係会社とのやりとりの中で新しい知見と多様性価値を得たりしてきました」

もう一つの「自分なりの意志を持つ」は、社外の接点で気付きを得る機会を最大化するアンテナ(手段)だという。社会・キャリアにおける、ありたい自分像や磨きたい価値基準を研ぎ澄ます。それを具体化し続けることで、得られる情報への捉え方・感度を広げ、自らを主体的に変革できるのだと伊藤氏は言う。

インサイドセールスを戦略機能として活かす
「右を向いた魚理論」

もう一つ、営業に関わる人々の最も大きな関心事の一つが、世界的なインサイドセールスの広がりだ。競争の激化とそれに伴う商圏の拡大や人手不足などを背景に、日本でも急速にインサイドセールスへの移行が進みつつある。だが一方で、その本質をきちんと理解しないまま、「移動コストが減る」「在宅勤務で人手不足を補える」など、表層的な理解しかできていないケースが多いのも事実だ。

伊藤氏は、インサイドセールスは従来型のフィールドセールスの代替などではなく、ソリューション営業チームの重要な一翼を担う戦略組織だと指摘する。具体的には「マーケティング」→「インサイドセールス」→「フィールドセールス」→「カスタマーサクセス」という一連の流れの中で、フィールドセールスが顧客との最初の商談に至る前の段階を、徹底的に“お膳立て”するために、顧客に戦略的アプローチをするのが、インサイドセールスだというのだ。それにより、フィールドセールスはお客様ともっと中長期的に共成長できる、win-winの未来像を深く議論・共有することに集中できるようになると説く。

ここにおいて伊藤氏がもう一つ提唱する営業理論が下記に図解する「右を向いた魚理論」である。機能分担してフィールドセールスが計画、商談、契約、次戦と定義する4ステップで顧客に向き合うとすると、通常は事前準備に徹底して時間をかけ、目の前の商談に最も注力することになる。そうすると、常に1つ1つの契約がゴールになり、売り切りの営業スタイルが脱却されず、常に自転車操業の営業活動になりがちだ。これではまさに営業が不要だといわれ、いずれはインサイドセールスに取って代わられるフィールドセールスの未来は変わらず、SaaSのアカウントセールスでは通用しないと伊藤氏は指摘する。

一方で、インサイドセールスを戦略機能として活かし、チームで成果を上げ続けるフィールドセールスの場合、上述のタイル戦略で徹底した1to1ターゲティングをすること[計画]に最も注力し、ここをインサイドセールスとも共有する。そもそも商材・ソリューションの価値が届きやすいお客様に向き合うからこそ、インサイドセールスも、より良質なアポイント設定ができる。

こうすることで、結果的に[商談]にかかる準備労力が軽減され、フィールドセールスはお客様と発展的な未来を会話しながら、まず一歩目としての[契約]を進めることができる。顧客の成功・価値実感を通じたアップセル・クロスセル[次戦]を先行して仕立てることができ、中長期的な営業活動も一層ポテンシャルを拡大できる。
また、この理論とタイル戦略に沿って、SaaSのアカウントセールスとしてのKPIも変えている。従来のKPI管理の破綻・KGIとの結びつきの弱さもあるため、ここでもデータと脳を使い、半年間の実証を経て、チーム独自のKGI・KPIを設計し、活動のコンディションを先行評価している。

「私のチームでは、『全員で戦略を共有し、全員が一歩先に染み出せ』と言っています。インサイドセールス担当者も、電話でアポ取りだけでなく、フィールドセールスの領域に“染み出して”こそ、次のステップへのお膳立てができる。そうやって各担当者がお互いの仕事の領域を少しずつ拡張することで、チームの力を押し上げて、もっと大きな成果に到達できると考えているのです。

「インサイドセールスこそ、最も『戦略脳』が必要な領域」と伊藤氏が指摘するように、この連携が成立すれば、フィールドセールスや他の担当者との関わり方もどんどん深化していくだろう。「脳と足とデータ」がフォーメーションを組んで進化していけば、フィールドセールスはもっと新しい価値を生み出せる。

お話をお伺いしたDataLover:
株式会社ユーザベース
SPEEDA Japan
セールスディベロップメントチーム
Business Developmentユニット
ゼネラルマネージャー
伊藤 竜一 氏

2007年名古屋大学大学院卒。リクルート入社。HR事業大手向けのメディア&ソリューション営業に従事。全国HR営業通期達成率TOP賞受賞(2010年度)。メディアと人材紹介を組み合せた顧客伴走モデルやAdTech活用サービスを企画立案・商品化。大手営業部隊でのマネジメントも経験。2016年ユーザベースに参画。SPEEDAのアカウントセールス及びそのマネジメントに従事。entrepediaやMIMIRの営業立ち上げに関与したり、一部プロダクト開発のリーダーシップを図るなど、マルチに活躍中。副業にもチャレンジしている。

(取材・TEXT:データのじかん編集部+JBPRESS+田口/工藤 PHOTO:Inoue Syuhei 企画・編集:野島光太郎)

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