日々情報化が進む社会の中で、重要な情報をどこに隠すか、という問題に人々は度々悩まされます。
暗号通貨などで用いられているクリプトグラフィーは、その名の通り様々な暗号化技術を使って情報を読めなくする技術です。そして、今回のDoTは、情報の存在自体を「モノ」のなかに隠す「ステガノグラフィー」として用いることができます。
研究チームはステガノグラフィーの具体例として、「ワルシャワゲットー覚書」を上げています。この文書は、第二次世界大戦中にワルシャワのゲットー(ユダヤ人が強制的に住まわされた居住地区)における凄惨な生活に様子をユダヤ人歴史家が記録したもの。この文書は、ミルク缶の中にひっそりと隠され、地中深く埋められており、戦後、ゲットーの跡地から掘り起こされました。
ユダヤ人に対する迫害と殺戮の詳細な記録がひっそりと隠されていたことで、後世の人々へと受け継がれたのです。
このような過去に敬意を払い、研究チームのメンバーは「ワルシャワゲットー覚書」に関する短い動画をDNAに記録させ、メガネの中に潜ませたそうです。
膨大な情報を小さな日用品に潜ませることができるDoTは今後、機密情報などの管理をする上で非常重要になっていくのかもしれません。
DoT技術を「ナノレベルの微細な粒子に DNAで印をつける技術」と解釈すると、医薬品から建設資材、堆積物に至るまで様々な場所で活用できるトレーサーとして利用することもできます。
例えば、医薬品や接着剤や塗料などの建設資材自体にいつどこで作られたかという製造情報や、品質管理のテスト結果などの品質情報、原材料などを搭載することができたり、特定の堆積環境の情報を搭載したトレーサーをその場所に撒くことで、長い時間が経過して、その堆積物がどのように移動したのかを追跡することができたりします。
このようにモノ自体に製造情報や品質情報といった情報を保存することができれば、時間が経過して姿形が変わったとしてもそれらの情報を取得することが可能になります。
ここまでDoTの利便性や様々な活用方法について触れてきました。
しかし、この技術を私達が日常的に活用するには、まだまだ課題が残っています。
その中でも最も大きな課題といえるのが、様々な情報を搭載した合成DNA分子の翻訳です。
DNA分子の解読に必要なDNAシーケンサーやDNAシンセサイザーは、非常に高額で、個人所有は難しいため、現時点では、所有する研究施設や企業に解読を依頼する必要があります。
DoTを日常的に活用するためには、 DNAを翻訳するための機器がより安価で一般的なものにならなければなりません。
様々な可能性を秘めたDoTですが、実用化に至るまでは、技術的にも金銭的にも様々な課題があります。
しかし、コンピューターの歴史を遡っても、初めは莫大な資産と広大な土地が必要で、個人所有など夢のまた夢だったコンピューターも、わずか数十年で安価で大容量さらには小型のスマートフォンに姿を変え、世界中の多くの人々が当たり前に使う存在になりました。
そう考えると需要さえあれば、DNAの翻訳を家庭でも実現できる、という未来はそう遠くないのかもしれません。
どんなモノにでも大切な情報を隠すことができるとするならばあなたはどんなモノにどんな情報を隠しますか?
【参考引用サイト】 ・ Storing data in everyday objects ・ Reversible DNA encapsulation in silica to produce ROS-resistant and heat-resistant synthetic DNA 'fossils' ・ 【生物工学】DNA記憶を持つ物質がウサギの設計図を記憶する ・ モノ自体にデータを安定保存する手法を開発、スイスの研究者 ・ 物体にデータをエンコードできる「モノのDNA」の時代が、小さなウサギのフィギュアから始まった
(大藤ヨシヲ)
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