IoTの世界では、あらゆるモノがインターネットを通じてつながり、ビッグデータを人工知能・AIで制御する時代が目前に迫っている。膨大なデータから想像を超えた価値を創出する社会インフラが構築される時、従来のビジネススタイルも大きく変化する。
あらゆる業種が新たなパラダイムへの模索を進める中で、人間と直接対峙する営業業務の“新しいカタチ”を求めて2017年9月に株式会社WEIC主催で「Sales Tech Conference 2017」が開催された。
ビジネスとテクノロジーへの深い見識を持つ2人の登壇者の提言から、日本のビジネススタイルを劇的に変えるAIの可能性を検証してみたい。
「ITやテクノロジーの急速な進化は、この20年間でビジネスの環境を大きく変えてきました。でも、我々日本人は、その進化をビジネスの生産性拡大へと結びつけることができていたのでしょうか」
基調講演に登壇した慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特別招聘教授 夏野剛氏の衝撃的な問いかけで「Sales Tech Conference 2017」は幕を開けた。
この20年間、3つのIT革命が、ビジネスの環境を大きく変えてきた。
Windows95や98の登場により、オフィスではPCが1人1台提供されるようになり、Excelなどの業務アプリケーションが電卓や紙の書類を消滅させる「効率革命」が進行した。
また、ビジネスのフロントラインはインターネットへと拡大し、Googleによる「検索革命」が、個人の情報収集能力を格段に向上。さらに、FacebookやTwitterによる「ソーシャル革命」が個人や組織の情報発信能力を飛躍的に拡大させ、人種・世代・ライフスタイルの壁を超えた交流の場を創出している。
これだけリソースの効率性が向上すれば、ビジネスの生産性拡大へと結びつくはずであるが、日米間の過去20年間のGDP(国内総生産)の推移には大きなギャップが存在する。
1996年から2016年までのGDP成長率は、米国が名目値で129%、実質値で58%も成長しているのに対し、日本のGDP成長率は僅か2.9%に留まる。少子高齢化による人口減少分を割り引いても、この差は著しい。
このギャップを、夏野氏は次のように分析する。
「3つのIT革命は、組織と個人のパワーバランスに大きな変化をもたらしました。米国の企業はそれを理解し、個人の能力を最大限に発揮させる仕組みを企業や社会のシステムに組み入れて、ビジネスの生産性を高めてきました。一方、日本の企業は『年功序列の縦型社会』や『多くの中間管理職が存在する分断された組織構造』、『利害調整型の経営手法』をなんら変えずに、テクノロジーの導入を続けてきたのです。その結果は、日米のGDP成長率の差に如実に現れています」
夏野氏の警告は、さらに続く。
「これからの20年間は、これまでの20年を凌駕する劇的な変化が『第4のIT革命』により起こります。超人的なデータ処理能力を持つAIが人間の社会にどんなインパクトをもたらすのかを理解しないまま臨めば、日本は決定的に成長から取り残されてしまいます」
IoTセンサーを通じて膨大な量のビッグデータがリアルタイムに集積され、これまで人間が行っていたデータのインプット・アウトプットが、AIに委ねられる時代、これまで予測・分析・検証不可能とされた事象がすべて解析され、次元を超えた演算処理能力により今まで不可能とされた新たなテクノロジーが実現される。
「あと30年もしたら、数値化された情報をリアルタイムに人の脳に直接伝える仕組みが完成されます。情報が誰にでも一律に伝わる環境は、これまでの『効率革命』『検索革命』『ソーシャル革命』を押し上げて個人の能力を最大化します。従来の組織や社会の構造をまったく無意味なものへと変えてしまうのです。それは、データが人間の行動の最適化を支える『電脳化社会』の成立さえ予感させるものとなるでしょう」(夏野氏)
「第4のIT革命」は、ビジネスの構造にも未曾有のインパクトを与える。
数値化される指標の管理・分析・判断はすべてAIに委ねられ、企業の生産性は、多様化する個人の能力を引き出し、創出価値を高めることに力点が置かれる。
リーダーの役割も大きく変化し、平均値しか引き出せない局所調整型の判断から、自社のリソースを最大化する全体最適型の判断が求められるようになる。
特に、少子高齢化で収縮する国内市場を抱える日本の企業の場合、AIテクノロジーを使いこなして新しい付加価値を創出できなければ、多様化するグローバル市場から弾き飛ばされることになる。
基調講演の最後に夏野氏は、AIテクノロジーを活用したビジネススタイルの変革について、次のように呼びかけた。
「“Creation(創造)”と“Imagination(想像)”。AIでは決して創出できない2つの価値をイノベーションの源としてください。いつの時代もテクノロジーは、人とともに進化を続けてきたのですから」
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