第2回で「アソシエーション」と「コミュニティ」の定義を比較しました。社会学者のマッキーバーによると、前者が「特定の関心を共同して追求するために設立された、人為的な機能集団」であるのに対し、後者は「地理的・文化的な地域性を結合要素とした社会集団」とのことでした。
この定義によると、コミュニティのメンバーは「地理的・文化的な地域性」によって結合するわけですが、ただ同じ市町村に居住していること、地理的な近接性だけで自動的に人々がつながるわけではありません。ここで重要なのが「文化的な地域性」です。
一口に「文化的な地域性」といってもさまざまな要素を内包していますが、歴史的に地域の人々を結びつけていたものに「祭り」があります。その土地に根差し、何百年と続いてきた祭りに住民たちは誇りを感じ、それがコミュニティーのメンバーの間に一体感を醸成してきました。
しかし、文化庁の宗教統計調査では、全国で神社を持つ宗教団体数は令和5年末で8万653団体で、10年前に比べて683団体も減少したとのことです。歴史的に神社は地域コミュニティの拠点としての役割を果たしてきましたし、人々を結びつける祭りとも密接に関係しています。実際、毎日新聞の無形民俗文化財アンケート調査によると、都道府県が指定する無形民俗文化財1737件のうち93件が休止状態にあるとのことです。どうやら神社の減少と地域コミュニティの一体感の喪失は因果関係がありそうです。
文化的に高い価値を持つ祭りを存続させるために地域外の人たちの力を借りたり、「女人禁制」だった祭りに女性の参加を許可したりするなど、さまざまな努力がなされています。もちろん、「祭り」そのものの継続も大事ですが、祭りの数日だけでなく、それを成立させるためにはコミュニティ内のつながりが必要不可欠だということも忘れるべきではないでしょう。実際、祭りのときには街並みも活気付き、若い人たちもたくさん集まって賑やかであっても、普段は商店街にはシャッターがおり、人の行き来もまばら、という場所もたくさんあるのです。
歴史的に祭りは地理的に近接する人々がつながるためのきっかけを提供してきました。また、祭りを開く場所の一つであり、同じような「つながる場」として機能してきた神社そのものも減少が著しくであり、データのじかんの取材によって当事者からは強い危機感もあらわになっています。
このように祭りが激減する中で、一体何が人々をつなげる「接着剤」のような役割を果たすのでしょうか?
その一つとして期待されるのが、前回取り上げた家族化する「ペット」です。特に犬を飼育している人の生活習慣は必然的に似てきます。朝夕の散歩の際に顔を合わせ、挨拶をかわし、会話をします。
しかし、祭りに神社が必要なように、ペット飼育者にも集まる「場」が必要です。それが「ドッグラン」です。一般社団法人日本ドッグラン協会によると、ドッグランは「犬本来の欲求を充足させるための運動、社交だけでなく、利用者同士の交流の場ともなる」とのことです。
特に地域にずっと根付いてきた祭りが少なく、外からの移転してきた人たちで構成される都市圏では「ドッグラン」は非常に重要な役割を果たしています。実際、東京都千代田区は飼い犬の件数が増加傾向にあり、5年間で約1.5倍に増加したため(令和6年3月31日時点)、無料で利用できる区営のドッグランを整備しました。
その趣旨について千代田区は「ドッグランは犬を愛する人々が集まる場所です。飼い主同士、ペットを通じて様々な交流が生まれ、地域のコミュニティ形成にも寄与できます」と述べています。
成人の約2人に1人が孤独を経験しているといわれる米国では、孤独を解消するためのロボット「ElliQ」がいくつかの州において政府機関の全額補助サービスを利用可能になっているといいます。
ElliQは、話しかけられたときだけでなく、能動的に高齢者と関わろうとします。そして、交わした会話はすべて記憶し、「ルームメート」のような存在になります。さらにユーザの健康のために運動や服薬、血圧測定などをリマインドしてくれ、記録した日々の健康状態を家族や医療機関とも共有するのです。ニューヨーク州が800人以上の高齢者を対象とした調査では、ElliQを使用した人の孤独感は95%減少し、幸福感は大幅に増したと報告しています。
さらに重要なことは、高齢者がロボットと話すことがゴールなのではなく、EliQを通じて家族や他の高齢者とリアルタイムでつながることを目指している点です。
ペットにしろ、ロボットにしろ、それだけで孤独・孤立問題の解消にはなりません。最終的に人とつながることがどうしても必要です。ただ、それを望まない高齢者に「助けを求めなさい」「周りとつながりなさい」と口を酸っぱくして言っても心は動かすことはできません。
かつて地域の祭りが人々の心をときめかせたように、魅力的なロボットや可愛いペットが媒介することで人がつながっていけるのが未来型のコミュニティのカタチなのかもしれません。
著者・図版:河合良成
2008年より中国に渡航、10年にわたり大学などで教鞭を取り、中国文化や市況への造詣が深い。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。現在は福岡在住、主に翻訳者、ライターとして活動中。
(TEXT:河合良成 編集:藤冨啓之)
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