【シリーズ 孤独と孤立をデータで探る④】ロボットやペットがつなぐ未来型のコミュニティのカタチとは? | データで越境者に寄り添うメディア データのじかん
カテゴリー
キーワード
【シリーズ 孤独と孤立をデータで探る④】ロボットやペットがつなぐ未来型のコミュニティのカタチとは?

【シリーズ 孤独と孤立をデータで探る④】ロボットやペットがつなぐ未来型のコミュニティのカタチとは?

コロナ禍は社会に計り知れない打撃を与えました。社会を分断し、人と人のつながりを希薄にし、孤独を感じる人が増加したといわれています。しかし、コロナが収束してしばらく経った今でもその状況は大きく変化していないように思われます。それはなぜなのでしょうか?

このシリーズでは、日本社会に蔓延している孤独感の正体に迫り、孤独・孤立をめぐるさまざまな取り組みや視点について取り上げます。

孤独・孤立対策としてコミュニティが必要なのはその通りですが、難しいのはつながりを作るための「きっかけ」です。

シリーズ第2回では<弱いロボット>を取り上げ、テクノロジーが紡ぐコミュニティの可能性について、第3回ではペットの「家族化」により生み出される飼い主同士のコミュニケーションについて検証しました。これらを踏まえて第4回では、ペットやロボットがハブ役になってつながる未来型のコミュニティのカタチについて考えてみます。

【シリーズ 孤独と孤立をデータで探る①】「孤独・孤立対策促進法」施行から1年。日本人は本当に「孤独・孤立」なのか?

【シリーズ 孤独と孤立をデータで探る①】「孤独・孤立対策促進法」施行から1年。日本人は本当に「孤独・孤立」なのか?

続きを読む 》

【シリーズ 孤独と孤立をデータで探る②】テクノロジーで「孤独・孤立」は解消されるのか?

【シリーズ 孤独と孤立をデータで探る②】テクノロジーで「孤独・孤立」は解消されるのか?

続きを読む 》

【シリーズ 孤独と孤立をデータで探る③】「ペット」は孤独・孤立問題の突破口になれるのか?

【シリーズ 孤独と孤立をデータで探る③】「ペット」は孤独・孤立問題の突破口になれるのか?

続きを読む 》

         

消滅の危機に直面する祭り

第2回で「アソシエーション」と「コミュニティ」の定義を比較しました。社会学者のマッキーバーによると、前者が「特定の関心を共同して追求するために設立された、人為的な機能集団」であるのに対し、後者は「地理的・文化的な地域性を結合要素とした社会集団」とのことでした。

この定義によると、コミュニティのメンバーは「地理的・文化的な地域性」によって結合するわけですが、ただ同じ市町村に居住していること、地理的な近接性だけで自動的に人々がつながるわけではありません。ここで重要なのが「文化的な地域性」です。

一口に「文化的な地域性」といってもさまざまな要素を内包していますが、歴史的に地域の人々を結びつけていたものに「祭り」があります。その土地に根差し、何百年と続いてきた祭りに住民たちは誇りを感じ、それがコミュニティーのメンバーの間に一体感を醸成してきました。

ゆるキャラ、B級グルメ頼みは時代遅れ!?地方創生の鍵「シビックプライド」はこう育てる

ゆるキャラ、B級グルメ頼みは時代遅れ!?地方創生の鍵「シビックプライド」はこう育てる

続きを読む 》

しかし、文化庁の宗教統計調査では、全国で神社を持つ宗教団体数は令和5年末で8万653団体で、10年前に比べて683団体も減少したとのことです。歴史的に神社は地域コミュニティの拠点としての役割を果たしてきましたし、人々を結びつける祭りとも密接に関係しています。実際、毎日新聞の無形民俗文化財アンケート調査によると、都道府県が指定する無形民俗文化財1737件のうち93件が休止状態にあるとのことです。どうやら神社の減少と地域コミュニティの一体感の喪失は因果関係がありそうです。

文化的に高い価値を持つ祭りを存続させるために地域外の人たちの力を借りたり、「女人禁制」だった祭りに女性の参加を許可したりするなど、さまざまな努力がなされています。もちろん、「祭り」そのものの継続も大事ですが、祭りの数日だけでなく、それを成立させるためにはコミュニティ内のつながりが必要不可欠だということも忘れるべきではないでしょう。実際、祭りのときには街並みも活気付き、若い人たちもたくさん集まって賑やかであっても、普段は商店街にはシャッターがおり、人の行き来もまばら、という場所もたくさんあるのです。

歴史的に祭りは地理的に近接する人々がつながるためのきっかけを提供してきました。また、祭りを開く場所の一つであり、同じような「つながる場」として機能してきた神社そのものも減少が著しくであり、データのじかんの取材によって当事者からは強い危機感もあらわになっています。

地方の神社が直面する深刻な課題解決の「絶対条件」はDX。埼玉県神社庁武田淳参事が語る必要性と可能性

地方の神社が直面する深刻な課題解決の「絶対条件」はDX。埼玉県神社庁武田淳参事が語る必要性と可能性

続きを読む 》

このように祭りが激減する中で、一体何が人々をつなげる「接着剤」のような役割を果たすのでしょうか?

ペット飼育者が集う「ドッグラン」

その一つとして期待されるのが、前回取り上げた家族化する「ペット」です。特に犬を飼育している人の生活習慣は必然的に似てきます。朝夕の散歩の際に顔を合わせ、挨拶をかわし、会話をします。

しかし、祭りに神社が必要なように、ペット飼育者にも集まる「場」が必要です。それが「ドッグラン」です。一般社団法人日本ドッグラン協会によると、ドッグランは「犬本来の欲求を充足させるための運動、社交だけでなく、利用者同士の交流の場ともなる」とのことです。

特に地域にずっと根付いてきた祭りが少なく、外からの移転してきた人たちで構成される都市圏では「ドッグラン」は非常に重要な役割を果たしています。実際、東京都千代田区は飼い犬の件数が増加傾向にあり、5年間で約1.5倍に増加したため(令和6年3月31日時点)、無料で利用できる区営のドッグランを整備しました。

その趣旨について千代田区は「ドッグランは犬を愛する人々が集まる場所です。飼い主同士、ペットを通じて様々な交流が生まれ、地域のコミュニティ形成にも寄与できます」と述べています。

高齢者向けAI搭載「孤独解消ロボット」

成人の約2人に1人が孤独を経験しているといわれる米国では、孤独を解消するためのロボット「ElliQ」がいくつかの州において政府機関の全額補助サービスを利用可能になっているといいます。

ElliQは、話しかけられたときだけでなく、能動的に高齢者と関わろうとします。そして、交わした会話はすべて記憶し、「ルームメート」のような存在になります。さらにユーザの健康のために運動や服薬、血圧測定などをリマインドしてくれ、記録した日々の健康状態を家族や医療機関とも共有するのです。ニューヨーク州が800人以上の高齢者を対象とした調査では、ElliQを使用した人の孤独感は95%減少し、幸福感は大幅に増したと報告しています。

さらに重要なことは、高齢者がロボットと話すことがゴールなのではなく、EliQを通じて家族や他の高齢者とリアルタイムでつながることを目指している点です。

まとめ

ペットにしろ、ロボットにしろ、それだけで孤独・孤立問題の解消にはなりません。最終的に人とつながることがどうしても必要です。ただ、それを望まない高齢者に「助けを求めなさい」「周りとつながりなさい」と口を酸っぱくして言っても心は動かすことはできません。

かつて地域の祭りが人々の心をときめかせたように、魅力的なロボットや可愛いペットが媒介することで人がつながっていけるのが未来型のコミュニティのカタチなのかもしれません。

著者・図版:河合良成
2008年より中国に渡航、10年にわたり大学などで教鞭を取り、中国文化や市況への造詣が深い。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。現在は福岡在住、主に翻訳者、ライターとして活動中。

(TEXT:河合良成 編集:藤冨啓之)

 

参照元

×

メルマガ登録をしていただくと、記事やイベントなどの最新情報をお届けいたします。


データ活用 Data utilization テクノロジー technology 社会 society ビジネス business ライフ life 特集 Special feature

関連記事Related article

書評記事Book-review

データのじかん公式InstagramInstagram

データのじかん公式Instagram

30秒で理解!インフォグラフィックや動画で解説!フォローして『1日1記事』インプットしよう!

おすすめ記事Recommended articles

掲載特集

デジタル・DX・データにまつわる4コマ劇場『タイムくん』 デジタル・DX・データにまつわる4コマ劇場『タイムくん』 データのじかんをもっと詳しくデータのじかんフィーチャーズ データのじかんをもっと詳しく データのじかんフィーチャーズ 「47都道府県47色のDXの在り方」を訪ねる『Local DX Lab』 「47都道府県47色のDXの在り方」を訪ねる『Local DX Lab』 DXの1次情報をを世界から『World DX Journal』 DXの1次情報をを世界から 『World DX Journal』 データで越境するあなたへおすすめの『ブックレビュー』 データで越境するあなたへおすすめの 『ブックレビュー』 BIツールユーザーによる、BIツールユーザーのための、BIツールのトリセツ BIツールユーザーによる、BIツールユーザーのための、BIツールのトリセツ CIOの履歴書 by 一般社団法人CIOシェアリング協議会 CIOの履歴書 by 一般社団法人CIOシェアリング協議会 なぜ、日本企業のIT化が進まないのか――日本のSI構造から考える なぜ、日本企業のIT化が進まないのか――日本のSI構造から考える 日本ビジネスの血流である帳票のトレンドを徹底解説 日本ビジネスの血流である帳票のトレンドを徹底解説 データを武器にした課題解決家「柏木吉基」のあなたの組織がデータを活かせていないワケ データを武器にした課題解決家「柏木吉基」のあなたの組織がデータを活かせていないワケ BI(ビジネスインテリジェンス)のトリセツ BI(ビジネスインテリジェンス)のトリセツ 入社1年目に知っておきたい差が付くKPIマネジメント 入社1年目に知っておきたい 差が付くKPIマネジメント CIOLounge矢島氏が紐解くトップランナーたちのDXの“ホンネ” CIOLounge矢島氏が紐解く トップランナーたちのDXの“ホンネ” データのじかん Resources越境者のためのお役立ち資料集 データのじかん Resources 越境者のためのお役立ち資料集 AI実装の現在地点-トップITベンダーの捉え方 AI実装の現在地点-トップITベンダーの捉え方 データでビジネス、ライフを変える、面白くするDATA LOVERS データでビジネス、ライフを変える、 面白くするDATA LOVERS データマネジメント・ラジオ by データ横丁 データマネジメント・ラジオ by データ横丁 データのじかんNews データのじかんNews データ・情報は生もの!『DX Namamono information』 データ・情報は生もの! 『DX Namamono information』 ちょびっとラビット耳よりラピッドニュース ちょびっとラビット耳よりラピッドニュース AI事務員宮西さん(データ組織立ち上げ編) AI事務員宮西さん(データ組織立ち上げ編) 藤谷先生と一緒に学ぶ、DXリーダーのための危機管理入門 藤谷先生と一緒に学ぶ、DXリーダーのための危機管理入門 生情報取材班AI時代に逆行?ヒトが体感した「生情報」のみをお届け! 生情報取材班AI時代に逆行?ヒトが体感した「生情報」のみをお届け! データはともだち 〜怖くないよ!by UpdataTV Original データはともだち 〜怖くないよ!by UpdataTV Original データ飯店〜データに携わるモノたちの2.5thプレイス by UpdataTV〜 データ飯店〜データに携わるモノたちの2.5thプレイス by UpdataTV〜 インサイトーク〜データで世界を覗いてみたら〜by WingArc1st + IDEATECH インサイトーク〜データで世界を覗いてみたら〜by WingArc1st + IDEATECH データの壁を越え、文化で繋ぐ。データ界隈100人カイギ データの壁を越え、文化で繋ぐ。データ界隈100人カイギ
close close