日本の基幹産業であるものづくり産業。製造した商品を消費者に購入してもらうことで収益を得ている製造業は、様々な事業部、部門、部署で組織化されており、その業務は多岐に渡ります。
製造業は、
・顧客のニーズを把握するためのマーケティング
・商品の新規開発、評価
・商品を製造するための生産活動
・販売網を開拓するための営業活動
・販売店から発注、在庫管理
・顧客、取引先へのカスタマーサービス
などに加え、自社の経理戦略、財務、人材管理など様々な業務が部署単位で日々行われています。
製造業のこれらの業務プロセスは、部署毎にこれまでの業務を通じて得た"経験"や"勘"を頼りに構築する傾向にあります。
このような業務構築過程は、同じ企業内にも関わらず、部署毎に体質の違う文化を作りあげてしまい、スピィーディなフットワークが求められる製造業の"足かせ"になってしまっているのが実情です。
製造業において、ダウンタイムの削減は競合他社との競争に勝つために必要な課題であることは認識しつつも、
・必要な情報が他部署の管理下にあるため得られない
・部署間のやり取りに時間がかかる
・部署間の文化の違いが障壁になり、協力体制が採れない
といったことに多くの従業員がジレンマを感じているのが実情です。
データドリブン(Data Driven)とは、企業運営のために必要な意思決定において、データとその分析結果を元に判断し、実行することを指します。
従来の製造業の多くは、経験と勘に基づき経営判断を行ってきました。
一方、データドリブンでは、様々な情報をビッグデータとして蓄積し、計算力の高いコンピュータが複雑なアルゴリムにて分析します。
経営判断がしやすい情報に数値化、可視化された分析結果を経営者、および企業全体に関わる従業員に提供してくれます。
ただデータドリブンを用いた業務プロセスは、
・企業全体の業務プロセスの統一化
・データサーバー、ツール、インフラなどの導入、
・データドリブンを活用できる人材の育成
とコストと時間を投じなければなりません。
それに加え、
・製造業の古き良き文化や伝統からの変革に抵抗感がある
・データドリブンが難し過ぎてその有用性が理解できない
・データドリブンの成功やリスクが測れない
といった企業内の意見の対立などもあり、ドメスティックな”変革”を必要とするデータドリブンは、IT化が進んだ現在でも、多くの製造業は導入に踏み切れない状況に陥っています。
データドリブンの情報源であるビックデータは、ただ単一の情報を膨大に蓄積するのではなく、様々な種類の情報を蓄積します。
そしてそれらを分析することは、製造業で表面化されていなかった課題や問題が浮き彫りになり、"見える化"をもたらしてくれます。
マーケティングや生産管理などは、顧客情報や在庫や発注などITによるシステムの導入により、特定の部署、業務など限定的なデジタル化はある程度進んでいます。
しかし製造業では、開発や評価、生産時の業務プロセスなど、データ化が困難な情報がたくさんあります。
そのため、企業全体のデータドリブン化において、重要な情報が欠落してしまっており、業務プロセス全体のホワイトボックス化が困難な状況に陥ってしまっています。
そこで注目されているのがセンシング技術によりあらゆるセンサーを通じて情報が収集できるIoT技術です。
工場の生産では、FA(コンピュータ制御による自動化)などが採り入れられていますが、制御だけでなく、センシング技術を備えた生産、製造、評価機器を導入することでデータドリブンに活用できる様々なデータが蓄積できるようになります。
特にカメラセンシングを使用する事で製造に使用された部品、テスト条件といった数値データだけでなく、実際の組立状況やテスト状況などが視覚的に捉えられる画像や動画データが蓄積できるようになります。
もちろんこれらのデータを一つ一つ、人間がチェックするには膨大な時間を要してしまうため、画像解析のアルゴリズムやAIといったデータ処理技術も重要な役割を果たしています。
IoT技術の積極的な活用は、製造業でブラックボックスとして扱われていた情報をビックデータに加えることを実現してくれるので、企業全体を通じて、様々な課題、問題へのアプローチを提供してくれます。
データドリブンは、IoT、ビッグデータなどのデジタル技術により、製造業に関連する以下のような業務管理プロセスの効果を大幅に高めてくれます。
SCMとは、Supply Chain Managementの略称で、必要なモノを、必要な時に、必要な場所に、必要な量だけ生産に、そして供給するための管理方法です。データドリブンでは、発売前の予約状況、発売後の実売状況といったデータがリアルタイムに蓄積できるようになるので、勘や経験ではなく、根拠に基づいたデータで製造計画を迅速に立案できるようになります。
ECMとはエンジニアリングチェーン管理の略称で、市場調査、商品企画、基本設計、詳細設計、評価、試作、試験など製品開発に必要な工程をガントチャート的に進める管理方法です。製造業の開発工程においては、顧客のニーズ、競合他社の製品詳細、部品・原材料の入手性・コスト、製造工場での品質管理状況、別工程の進捗、要望、問合せなど多大な情報が必要になります。これらの情報を開発現場が独自にデータドリブンから入手することで、スピィーディで質の高いエンジニアリングチェーン管理が実現できるようになります。
MESとは製造工程の把握や管理、作業者への指示や支援を行う生産管理システムを指します。製造現場の各工程と連携する仕組みを備えており、作業手順管理、入荷・出荷管理、品質管理、保守管理などの機能を用いることで、詳細な良品条件を作り、製品のバラツキを抑えることが出来るようになります。
MOMとは製造オペレーション管理の略称で、倉庫管理、品質管理、保守管理、従業員管理などを包括的に扱う管理方法です。製造業の製造現場では様々な製品を並行しながら製造するため、多様な業務を行わなければならず、現場は複雑化を辿っています。
製造オペレーション管理では、
・製造の先進的計画、生産能力分析、在庫回転率、市場投入時間などの判断に必要な情報をリアルタイムに提供
・複雑に絡み合う多様な製造オペレーションのデータを統一管理することで工程の単純化や連携を実現
・廃棄物や在庫の削減、設計から出荷までに要するサイクル期間の短縮を実現
・効率・品質・顧客満足度の向上に必要な情報の提供
といったことをもたらしてくれます。
製造業は、ただ製品を作るのではなく、顧客のニーズにマッチし、かつそれを短いリードタイムで実行し続けなければなりません。
データドリブンは、これまで製造業が課題として抱えていた情報の共有、検索、連携等が業務プロセス中のタイムアウトが迫られたタイミングではなく、従業員一人一人が任意のタイミングで行えるようになります。
このような業務プロセスは、製造業においてフレキシブでスピィーディな業務推進力をもたらし、リードタイム、およびダウンタイムの削減に繋がります。
また商品企画から設計、試作、生産、アフターサービスまで、各部署で情報共有ができるようになり、高い企業競争力も備わります。
例えば
・開発過程において採り入れておくべきプランの見落としの予防
・顧客ニーズにマッチした製品の開発
・評価工程における真の不具合原因の特定
・系やロッドといった単位ではなく、1製品単位の品質管理
・生産品質向上による不良発生率の低下
・より的確でスピーディな生産と販売網への供給
・カスタマーサービス単独での顧客トラブルなどの問題解決
といったことができるようになるため、データドリブンの導入は、製造業に"守り"から"攻め"といった経営スタンスの変革をもたらしてくれます。
製造業の課題、データドリブンの可能性についてご紹介させて頂きましたが、その有用性をご理解頂けたでしょうか?
データドリブンでは製造業の業務プロセスに必要な情報を人伝いではなく、システムを通じて入手できるようにしてくれます。
しかしデータドリブンの経営判断に使用する分析結果の姿は、それを利用する従業員が自ら考えなければ、その有用性を発揮することはありません。
データドリブンは、製造業が採るべき判断を人に代わって行うわけではありません。
どのような分析結果があれば現場の問題や課題の解決に繋がるのか?といったことに向き合うのは、製造業に携わる従業員であり、これからの製業の競争においては、データ分析力に高いスキルを備えた人材が求められます。
データドリブンの導入は製造業に変革をもたらしてくれますが、それと同時に経営者をはじめ、日頃業務で課題を感じている従業員たちの意識改革も必要になります。
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