データドリブンとは?
データドリブン(Data Driven)とは、経験や勘などではなく、様々な種類と膨大な量の情報を蓄積するビックデータとアルゴリムによって処理された分析結果をもとに、ビジネスの意識決定や課題解決などを行う次世代型の業務プロセスです。
データドリブンは大きく分けて、以下に示す4つの柱によって成り立っています。
・データの収集
ビジネスの意思決定に必要なデータをクラウド上のデータサーバーにビックデータとして蓄積します。ビックデータに蓄積するデータは、各部門の業務システムやIoT、Webサーバー、外部サービスなどから取得します。
・データの分析
ビックデータに蓄積した定量的なデータの時間的変化や他のデータとの関連性などをアルゴリズムにて計算します。ランキング(順位)、最大値、最小値といった定量的なデータ、視覚的に理解できるグラフや図といった定性的なデータを分析結果として導き出します。
・データのビジュアル化・可視化
企業の意思決定では、あらゆるステークホルダーにエビデンスを示した上で合意を得るプロセスを踏まなければなりません。従って、単なるデータやグラフの羅列ではトレードオフの理解を得にくくしてしまうため、ビジュアル・可視化を駆使し、“一目瞭然”な分析結果を示す必要があります。数値、グラフ、図をバランスよく、シンプルに再加工・構成することで、分析結果の価値が大幅に高まります。
・意思決定・アクション
データの分析結果を元に具体的な施策や対策、結論などを決定します。分析結果ではいくつかの選択肢が抽出され、このプロセスでは、アルゴリズムやAIなどでは判断が難しい内容をトレードオフなどで判断します。その後、意思決定の内容に従い、行動を実践しますが、データドリブンは行動対象の現状・実情もデータとして加味します。従って、意思決定には、具体的な行動の内容が伴うケースが多く、データドリブンに精通した企業は、“あとは実践あるのみ=アクション”といった共通認識で、解決・改善などに向け、前に進み始めます。
データドリブンの注目が高まっている理由
情報化社会の基幹技術であるストレージ、クラウド、計算処理、センシングなど、IT技術の向上により、様々な情報が行き交うようになり、スピード感のある世の中に変わり続けています。IT革命以降、急速に拡大した情報のトラフィックは、ビジネスのターゲットに様々な選択肢を与え、複雑な社会が構築され、その深度は日々深まっています。
当然ビジネスにおいても経験や勘を頼りにした従来のプロセスでは対応しきれなくなってしまっており、昨今ではデータに基づいて判断や意思を決定するデータドリブンが注目されています。
データドリブンはビッグデータで以下のように複雑化された状況を的確に分析し、意思決定に必要な判断材料や分析結果を示してくれます。
○顧客行動の複雑化
ある製品やサービスの購入や利用を考えたとき、昨今の顧客は、インターネット検索で得た情報を精査した上で採るべき取るべき行動を選択します。そのため、従来の顧客行動に加え、インターネットの情報により、様々な選択の要素が加わります。
例えば、
- 類似、競合品
- 入手、利用方法
- 代替手段
- 時期
- 価格
などが該当し、これらのバリエーションの増加が顧客行動の複雑化を後押ししています。
○現場業務の複雑化
顧客行動の複雑化は、製品やサービスを提供する側の企業にも影響を及ぼします。企業としては顧客のニーズに応えるため、様々なラインナップを取り揃えなければなりません。
また製品やサービスによっては、顧客毎のカスタマイズやチューニングなどにも対応しなければならないケースもあります。
このようなビジネスモデルは現場業務を複雑にしており、昨今では従業員の負荷、コスト、効率の改善が迫られています。
○問題・課題の早期解決
昨今では製品やサービスの市場でのライフタイムが短くなっており、常に新しいものが顧客から求められています。また市場の需要と供給の関係もセンシティブに変動しており、安定した利益を得るためには、より早く、精度の高い業務プロセスの実践が必要不可欠です。
そのため企業は様々な問題・課題の早期抽出、発見、解決に取組む必要があります。
データドリブンで取り扱うデータ|小売業の例
データドリブンはビッグデータに蓄積された様々なデータの時間的変化、他のデータとの相関関係などを分析することで、事象の因果関係、ランキング、予測値などを求めます。
ビックデータに蓄積するデータはデータドリブンを利用する企業の業種、部門などによって様々で、企業の業務システム、WEBサーバー、IoT、他社サービスなどからインプットします。
ここでは、データドリブンのビックデータに使用するデータについて、小売業のユースケースを交えながらいくつか紹介したいと思います。
○顧客の購入履歴
主に製品・サービスを販売する企業で必要とするデータです。顧客の購入履歴により、購買タイミングの予想や顧客に寄り添ったセールスが実践できるようになります。
○顧客が購入に至るまでのルート
顧客が購入に至るまでのルートを知る事は、宣伝・広告の効果や有用な販売方法を知ることに繋がります。
具体的には、
- リアル店舗、通販での購入か?
- どのようにして商品、サービスを知ったか?
といったデータが利用されています。
○商品・サービスを購入した顧客の満足度やリピート率
商品、サービスを購入した購買者から寄せられたアンケートやインタビューなどをデータとして収集します。ただWEBに自ら投稿する人、販売員からの協力に求めて答える人など、モチベーションにバラツキがあるため、全ての購買者の真意に当てはまらないケースもあります。
○顧客情報
SNSやアンケートなど、様々なメディアから得た居住地、年齢、家族構成、交友関係、興味・関心といったデータです。これらの情報を蓄積する事でマーケティングに活用できる分析結果を得る事ができます。
○在庫状況
商品の在庫、発注の日別のデータで、売上予測や生産計画、人員計画などが予想できるようになります。
○開発状況
モノづくり企業の多くは、開発プロセスをウォーターフォール型からアジャイル型にシフトしており、部署、チーム間での情報の共有がより求められています。要求、要件、日程、ステータス等などのデータを企業全体で共有する事でフットワークが向上します。
○生産状況
生産現場ではIoTとセンシング技術の発達に伴い、製品の組み立て状況、農産物の栽培状況などがデータとして蓄積できるようになりました。具体的には画像や動画などからAIで抽出したデータが該当します。
データドリブンを実現してくれるツールとは?
データドリブンは通信インフラのように規格に従って運用されているわけではありません。
従ってExcelやAccessなどのビジネスソフトでも実践することができます。ただデータドリブンの分析結果の精度は、元となるビッグデータの蓄積量とアルゴリズムに大きく依存します。
データドリブンで高い効果が期待できるシステムやツールを独自に準備するとなると多大な期間と費用、それに対応できる人材などの負担が強いられます。
そのためデータ活用に取り組んでいる企業の多くは、データマネジメントプラットフォームというデータドリブンに特化したツールやITサービスを導入しています。
データマネジメントプラットフォームは、様々なデータを蓄積して企業内の各部署で共有し、可視化や業務にマッチした分析結果を提供してくれます。
また、データ活用を前提にしたツールやITサービスの使用が強いられるため、データドリブンの定着が課題の企業には、ワークフローの早期確立も促してくれます。
データドリブンツールの機能
データドリブンをサポート・アシストするツール・ITサービスは企業の目的、用途に応じられるよう、機能単位で提供されています。
ここでは多くの企業がデータ活用に利用しているデータドリブンツールの機能を種類毎に紹介します。
◯BI(ビジネスインテリジェンス)
BI(ビジネスインテリジェンス)は企業に蓄積されたビックデータを分析して、経営管理や売上のシミュレーションなどの機能を備えています。
BIツールはデータドリブンの中でも、中核となる役割を担っており、以下のような機能を備えています。
・レポーティング(ダッシュボード):
企業活動の状況を示す様々なデータを統合して表示する管理画面のことを指します。ビジュアル化したデータを用いることで高い視点から広い視野でビジネスが見渡せるようになります。
・OLAP分析(オンライン分析処理):
収集したビックデータから「地域」「製品」「価格帯」など、複数の軸(多次元)から成るデータベースを生成し、ドリルダウン(掘り下げ)、スライシング(絞り込み)、ダイシング(軸の入れ替え)といった分析処理を行います。
・データマイニング
重回帰分析やディシジョン・ツリーといった統計式を用いてデータを分析し、その中から価値ある法則や関連性をマイニング(発掘)します。
・シミュレーション:
過去のデータや条件を基に、コンピュータ上に構築されたモデルを用いて、期待値(予測値)を計算します。
予算や販売数、売上予測などの見積りに利用され、期待値から条件、条件から期待値など双方向にシミュレーションする事で精度の高い予測値を算出する事ができます。
またBIはETL(データ統合)という技術を備えており、様々なフォーマットのデータを抽出・変換・ロードする事ができます。
そのため様々なシステム、データベースにあるデータが統合的に活用できるようになります。
◯DMP(データマネジメントプラットフォーム)
DPM(データマネジメントプラットフォーム)は、外部サービスが提供するパブリックデータ(ビックデータ)や社内の様々な情報を収集・分析し、顧客の嗜好性や興味・関心をリアルタイムに把握します。分析結果は主にマーケティングの分野で、商品の改善・開発や新規顧客開拓などに活用します。
◯MA(マーケティングオートメーション)
MA(マーケティングオートメーション)は獲得したリード(見込み客)の情報を一元管理し、デジタルメディア(メール、SNS、WEBサイト)によるマーケティング活動の自動化を実現します。宣伝・広告の発信や優先度の高い顧客の可視化・リスト化が自動化されるので、セールス部門の業務の負荷を大幅に削減してくれます。
◯WEB解析ツール
WEB解析ツールは、WEBページに埋め込まれたタグをもとに、PV(ページビュー)やUU(ユニークユーザー数)、セッション数、インプレッション数(表示回数)、CTR(クリックスルー率)、Bounce Rate(直帰率)などを集計します。自社サイトやLP(ランディングページ)のアクセス状況を把握する事で宣伝・広告の効果が把握できます。
◯SFA(セールスフォースオートメーション)
SFA(セールスフォースオートメーション)は、営業担当者が持つ顧客情報や案件の進捗、商談事例等など、営業活動に関連した情報をデータとして蓄積・共有する業務支援システムです。組織的な情報の共有は、顧客対応力、生産性、業務効率を大幅に高めてくれます。
◯CRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)
CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)は特定の顧客との関係を継続的に築き上げ、売上げ、利益、企業価値を向上させる管理方法のことで、データドリブンでは以下のようなプロセスで実践します。
- ビックデータに顧客情報を蓄積し、不特定多数の人々を同じニーズや性質を持つ固まりとして市場細分化する
- 固まり(セグメント)単位でアプローチやニーズの把握し、顧客にランク(プライオリティ)を付与する
- プライオリティの高い顧客を優先して、製品やサービスを提供する
- プライオリティの高い顧客との関係を維持するための施策を行う
データドリブンツールを選ぶポイント
データドリブンは企業の業種、部門によって活用ケースが大きく異なります。
データドリブンツールを導入しようとしている企業の多くは、データドリブンに手探りでアプローチしようとしているケースも少なくはありません。
適切なツールの選定には、データドリブンの深い理解を必要としますが、ここでは導入後に失敗を招かないためのポイントを紹介したいと思います。
○不鮮明な目的が失敗を招く
データドリブンのアプローチによっては、優れたデータ収集、分析機能の結果、効果的な意思決定やアクションを実現することが可能です。
しかし、実際に業務プロセス上、どのような分析結果が必要なのか?といったビジョンを持たないと
- どのような機能が必要なのか?
- どのようなデータを蓄積すれば良いのか?
といった事が不鮮明になってしまいます。
またツールベンダーが例として提供するツールの操作方法 = データ活用になるとは限りません。
データドリブンを活用する業務モデルの机上検討、導入前検証(PoC)を行う事で目的が明確化されます。
○コストは費用対効果で考えるべき
昨今のビジネスツールの多くは利用する人数、機能、データ量などによって変動する料金体系で提供しています。
利用する全ての人が全ての機能を使用するわけではないので、企業規模に見合ったラーニングコストで利用することが出来ます。
ただ、このような料金体系は、他製品とのトレードオフや費用の見積もりを複雑にします。
選定には費用対効果で考え、目的の明確化で紹介した導入前検証を実施して選定すべきです。
○ツールと企業とのマッチング
データドリブンツールの多くは、クラウドを活用するため、その企業が備えているインフラ、IT環境(システム、パソコン、OS、言語)、利用者のITスキルによって導入の難易度が大きく変わってきます。
またデータドリブンツールが必要とする要件と企業が備える設備・システム、利用者のスキルにミスマッチングが生じると、データドリブンの定着までに多大な期間が強いられてしまうケースがあります。
まとめ
データドリブンが注目されている理由とそれをサポート・アシストしてくれるツール・ITサービスの種類、機能にについて紹介させて頂きましたが、データドリブンツールの学習・調査に有用な情報をお届けできたでしょうか?
最後に今回紹介させて頂いた要約をまとめとして、以下に記載させて頂きます。
- 顧客行動・企業現場の複雑化、問題・課題の早期解決手段としてデータドリブンの注目が高まっている
- データドリブンで取り扱うデータは企業の業種、部門によって異なる
- データドリブンツールは、企業の様々な目的、用途に応じられるよう機能単位で提供されている
- データドリブンツールには種類があり、BI、DMP、MA、WEB解析ツール、SFA、CRMなどが活用されている
- データドリブンツールの導入には、業務モデルの机上検討や導入前検証を行った上で選定するべき
- データドリブンツールは、目的、コスト、利用環境を考慮して選定すべき
TEXT:畑中一平