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インターネットとモノを結びつける技術、IoT。その最先端技術を養豚に生かそうと、宮崎県の畜産農家が挑戦している。宮崎ブランドポーク「まるみ豚(とん)」の生産で知られる川南町の「協同ファーム」だ。社長は2代目の日髙義暢さん。

お話をお伺いしたDataLover:
日髙義暢(ひだか・よしのぶ)さん

有限会社協同ファーム代表取締役社長
関西外国語大学卒業後に現在の養豚に就く。2011年に社長就任平成29年度より生産規模拡大に着工。「豚の幸せを考え、我が幸せを想い、人々の幸せに貢献する」と標榜し、2009年より「まるみ豚」ブランドを立ち上げ、6次産業化に取り組み、販路を拡大中。2017年九州・沖縄農業未来アワードグランプリ獲得。軽トラ市でのまるみ豚バーガー、ラジオ番組「喫茶まるみ豚」などメディア出演多数。 協同ファームHP

進取の気風まとう門外漢

協同ファームは日髙社長の父吉幸さん(故人)が1968年ごろに興した養豚場が前身。だが当初は2代目を継ぐ気はなかったという。中学、高校とバスケットに明け暮れ、将来はプロ選手を目指していた。夢をあきらめた後は、大阪の関西外国語大に進学し、英語とイタリア語を学んだ。イタリアに留学した時に実家が豚を飼っているとイタリア人の友人に話すと「なんてステキな仕事を、なぜお前はやらないんだ」と言われて養豚の価値を見直したのが、後を継ぐきっかけになった。

農業系の高校、大学を経たわけではない、いわば“門外漢”だが、本人は「それが良かった。外の世界を見られたから」と笑う。日髙社長がまとう進取の気風は、そういう経歴からきているのかもしれない。
日髙社長の従来のやり方にとらわれない養豚場経営は、IT技術を積極的に活用しているのが特徴だ。従業員はパート含めて24名(2017年9月時点)で、うち12名が現場で養豚に携わっている。
就業管理はクラウドサービス「TeamSpirit」を2017年1月に導入して各人が入力、グラフで無駄な時間を“見える化”し、意識改革につなげている。また、LINEのビジネス向け有償サービス「LINE WORKS」も同年9月から使い始め従業員同士の業務報告のツールとして活用、設備や豚の異常を投稿すると手の空いた従業員がすぐ対応できるようになった。こうした仕組みは、従業員のほぼ全員にiPhoneを支給することで、可能にした。

口蹄疫を乗り越え完全復活

協同ファームでは、吉幸さんの代から豚の飲み水と餌にこだわっている。井戸水に、ある種のバクテリアやミネラルを加え、挽き立てのトウモロコシをメーンにした自家配合の餌を与える。高品質な肉は次第に評判を呼んだ。

2009年に「まるみ豚」として商標登録し、ブランド化に乗り出した。「まるみ」は語感の良さと、丸(味や育てる環境、人など)がたくさん集まった豚でありたいとの願いを込めて命名。ブランドの知名度アップと販路拡大のため、ネット通販も始めた。

経営が軌道に乗り始めた2010年、宮崎県内で家畜の伝染病「口蹄疫(こうていえき)」が発生。同年4月から8月の間に殺処分された牛や豚などは宮崎県で計29万7808頭にのぼった。「協同ファーム」のある川南町では全頭が殺処分の対象となり、町から牛や豚が消えた。疫病の影響は大きく、県内で離農者が続出した。

日髙社長は「わが社の豚もゼロになった。恐ろしいことだが、これは一から新しい養豚に取り組むチャンス。若いわれわれの出番だ」と、開き直ったのだという。同じ地域の養豚農家に自分と同じ若い2代目が多かったのも再起の力になった。
口蹄疫後、まるみ豚は宮崎県畜産共進会など肉豚枝肉部門で3度の首席を獲得して品質の高さを証明した。完全復活を果たしたのだ。

「協同ファーム」の豚舎入り口には、今も巨大な金属製の防疫ゲートがある。豚舎に入るすべての車両はこのゲートで、人間はその隣にあるプレハブ小屋で、消毒を受けなければならない。「口蹄疫」の再来を厳重に防ぐためだ。

日髙社長は口蹄疫前から、歴史が長く気候風土が日本と似ているヨーロッパの畜産業に注目していたドイツやデンマークの畜産を視察し、機械化と自動化がもたらす効率性の高さに驚いた。「ヨーロッパに負けない高品質の豚肉を効率的に作れないか・・・」

そして、さらなる挑戦がITによる働き方改革であった。

人と会話する機械の活用

すでにTeamSpiritやLINE WORKS、iPhoneの活用による効果を実感していた日髙社長は、この夏から次のステップに踏み出した。IoTを使った「機械と人間とのコミュニケーション」である。

日髙社長は「養豚業者が豚と向き合う時間は思いのほか少ない」と嘆く。その原因は設備の補修作業に多くの時間をとられるからだ。例えば、自動給餌器やスクレイバー方式の自動除糞(ふん)装置などの故障、水道管の水漏れ、排水溝の詰まりなどが日常的に起こり、従業員はたびたびその補修に追われる。しかも夜間は無人になるため、長いと半日近く故障が放置されたままのことすらある。

それなら、養豚の複数の設備機器にさまざまなセンサーを取り付け、適正に稼働しているかどうか、故障箇所はどこかといったデータを瞬時に携帯デバイスに配信できれば、補修作業の迅速化、時間の短縮化が図れる。それで生み出された空き時間をもっと豚の世話に振り分けられるのではないか——というのが日髙社長の狙い、すなわち「人とコミュニケーションする機械」の活用である。事業のパートナーは、株式会社システムフォレスト、データ可視化ツールMotionBoardを利用した。

写真(左) 株式会社システムフォレスト 松永 圭史氏   写真(右)有限会社協同ファーム 日髙 義暢氏

スタートした現豚舎での実証実験

タイミング良く、協同ファームでは2018年5月を目標に新豚舎を建設する予定があるため、取り壊し予定の現豚舎でIoTの実証実験を行うことができる。2017年9月時点で、豚の飲み水に使う水源の井戸に流量計とセンサーを設置、養豚場全体で使う水の量を把握できるようになった。さらに加工場の冷凍庫、冷蔵庫に温度センサーを取り付け、庫内の温度変化が時系列で分かるようにもしている。センサーが取得したデータはBluetoothなどでゲートウェイに集約され、IoT通信向けプラットフォームSORACOMを経由しMotionBoardで集約しモニタリングする仕組みだ。

給水・餌・集糞・浄化槽・温度・湿度・CO2など豚舎をあらゆる視点でモニタリング

今後は、協同ファームとシステムフォレストが協議してセンサーを増設しながら、効果的なセンサーの設置場所、し尿からアンモニアが発生する豚舎の厳しい環境下での耐久性などを検証し、新豚舎へのIoT導入へとつなげていく。

協同ファームは新豚舎の建設を契機に、現在の飼育頭数5,000頭を倍増する計画を立てている。さらに2020年開催の東京五輪への食材提供、輸出への取り組みに必要な国際基準のGAP(農業生産工程管理)の認証取得も視野に入れる。しかも従業員数は現状のままでだ。

「目標にはいろいろな設備の自動化とそれを監視・連絡するIoTの導入が不可欠」と日髙社長は力を込める。新豚舎には、飼料タンクの重量管理、空調システム、公害防止のための脱臭装置、糞尿で堆肥をつくる発酵装置などの稼働管理のためにもIoTを導入したい考えだ。

豚の幸せを考え、我が幸せを想い、人々の幸せに貢献する、協同ファーム

宮崎県の畜産といえば地鶏と肉牛が有名だ。豚の飼育頭数も84万6700頭で鹿児島県に次ぐ全国2位の産地(2017年畜産統計)なのだが認知度は低い。その宮崎産ポークを消費者に浸透させようと、県とJA宮崎経済連はまるみ豚などを「宮崎ブランドポーク」として選定、PRに力を入れている。

 一方で、宮崎県畜産振興課は養豚業界共通の課題として「担い手不足」を挙げた。求人しても集まらないし、働いてもすぐ辞めてしまうというのだ。

「働き手が気持ち良い環境で長く働いてもらうことが必要。養豚農家のITによる効率化、職場環境改善がほとんど進んでないなか、協同ファームの取り組みはとても興味深い。それを農家の利益にいかにつなげられるかに注目している」と同課酪農・中小家畜振興担当の川北正昭主査は評価する。一方で、日髙社長も「誰かが新しいことをやるのを、他の養豚家たちはじっと見ている」と話す。

行政や同業者が注目するのも頷ける。この取材を通して、協同ファームにおけるより安全・安心な「豚」に対する取組み、高い意識と新しいテクノロジーに対する表面的ではない、深い理解を目の当たりにした。そして何より、協同ファームの従業員は総じて笑顔で明るく仕事をしており、同時にスタッフの仕事に対する「誇りと自信」という強さもヒシヒシと感じた。

また国内の養豚業にとっては自由化を見据えた欧州連合とのEPA(経済連携協定)交渉、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)交渉の先行きも不透明であり、いかに国際競争力のある豚肉を育てるかと、懸念材料も少なくはない。協同ファームの取り組みが、宮崎県、日本の養豚・畜産の新たなブレークスルーとなるのかを、これからも注目していきたい。

取材・TEXT:西山 宏

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