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データを用いた農業で生産者を支援、 千葉市の農政センターの取り組み

データのじかんでは、全国47都道府県の各地域のDXやテクノロジー活用のロールモデルや越境者を取材し発信している。「Local DX Lab」は地域に根ざし、その土地ならではのDXのあり方を探るシリーズだ。今回は千葉県。生産者に寄り添い栽培を支援するとともに、データを活用して農業そのものをよりアップデートし、データを活用した農業の普及を目指す千葉市経済農政局農政部農政センター。農業生産振興課の技術振興班の主査である佐々木教子氏と技師の松﨑奏氏にデータ活用の取り組みについて聞いた。

         

IoTやドローンを用いて、栽培の効率化や最適化を目指すAgriTech(アグリテック)。そしてデータを活用して農業そのものをよりアップデートしていく農業DX。そんな取り組みをしながら生産者に寄り添い栽培を支援しているのが千葉市の経済農政局農政部農政センターである。イチゴやトマトなどの栽培で気温や湿度などのデータを取り、スマート農業の推進や生産性の向上に活かすだけなく、オール電化による燃油使用量の削減や脱炭素化を進める実証実験を行うなど多様な取り組みを行っている。千葉市の農政センター 農業生産振興課 技術振興班の主査である佐々木 教子氏と技師の松﨑 奏氏にデータ活用の取り組みについて聞いた。

千葉市の農家を現場に寄り添って支援

まずそもそも千葉市にある経済農政局農政部の農政センターとはどのような存在なのだろうか。話を聞いた技術振興班の主査である佐々木氏はこの道25年のベテラン職員である。農政センターについてこう語る。

千葉市経済農政局農政部農政センター 農業生産振興課 技術振興班 主査 佐々木 教子氏

佐々木「各都道府県には県立の試験研究所機関が置かれており、新技術の開発や品種改良などの業務を行なっています。私達の千葉市農政センターは、市内の生産者により近い存在として生産に直結する技術実証や普及を行う存在です。

市町村で農場を有し、農業支援を行う施設は全国にあまり多くはないのですが、農業センターにはハウスやほ場があり、栽培実証を行うほか、種苗提供や栽培試験、新規就農希望者を対象に農業研修を行っています。」

農政センターは担い手育成や設備の管理を行う農業経営支援課に計14名、佐々木氏と松﨑氏が属する農業生産振興課に計15名在籍しており、圃場管理のアルバイトなどを含めると合計40名ほどの組織だという。千葉市の農政センターが開設されたのは1978年(昭和53年)のこと。転機は2021年(令和3年)に農政センターリニューアルプランの策定が行われたことだという。

佐々木「農業分野の技術革新とグローバル化が進んでおり、農業を取り巻く状況は大きく変わっており、私たちに求められる役割も大きく変わってきました。これまではあくまで園芸振興のための技術普及の拠点と位置づけられて、栽培技術をお伝えするための場でした。このリニューアルプランは『農政センターを千葉市農業の成長産業化を支援する現場の拠点とする』取り組みです。

具体的には『スマート農業の実証フィールド化』や『栽培試験・研修の強化』『農業技師の指導力強化』を掲げました。スマート農業技術の活用を普及させるため、スマート農業のソリューションを提供する企業20社ほどにヒアリングを行い、農政センターの施設を活用した実証実験や農業者とのマッチング、実際に技術に触れる機会としての展示会を行っています。

環境モニタリングのほかに液化炭酸ガスの施用や、遠隔操作で水やりができるシステムの実証実験を行っているという。以前、『データのじかん』にも登場した宮﨑のテラスマイル株式会社のRightARMも用いて、営農指導に活かしているそうだ。

温室、露地、ドローンの3領域でさまざまな実証を行う

自動かん水のスマホ画面、スマホで操作して水撒きができる(画像左)/自動かん水機を使った小松菜への水やりの様子(写真右)

ベテラン農家さんの「経験」とデータによる「気付き」が前に進むきっかけに

千葉市農政センターのイチゴのハウス。12月はかおり野の収穫期

実際に栽培を行い、データを取得して、その情報を直接生産者さんに伝えているのが、2020年入庁の松﨑奏氏である。データで見るとどのようなことが見えてきたのだろうか。

松﨑「千葉市の農政センターではイチゴの栽培試験などを行っています。各県が育種した様々な品種がありますが、農政センターでは「とちおとめ」と「かおり野」を育てています。「かおり野」は三重県が交配した品種で炭疽病という病気に強く、早い時期から収穫できるのが特徴。三重と千葉での環境は違うので、実際にハウスで栽培試験を行っています。

データを取ってみて興味深かったのは、定植時期でしょうか。例えば、冬のクリスマス商戦に向けたイチゴの生産が行われる中で、例年、9月中旬に植えるのがセオリーとされていますが、近年の気温データと花芽分化調査の結果から、昨今の温暖化によりなかなか秋口に気温が下がらない傾向が分かり、9月になって暑さがぶり返すと、きちんと花芽分化していないことがわかりました。そこで、花芽分化を調査する時期を8月下旬から9月上旬に変更し、気温の状況も把握したうえで、感覚ではなく花芽の分化状況をきちんと確認したうえで定植するよう技術資料を作成しました。」

温度、湿度を測る機械でモニタリングを行う

農作物は植える時期を間違えるとダメになってしまうもの。特にベテランの生産者は栽培暦に従い長年の経験や勘に従って栽培しているが、データを用いながら「これだけ気温が下がったら花芽分化しやすい」と示せるのが大きいのだという。

松﨑「イチゴの場合は、いびつな形の奇形になると売り物になりません。その奇形が出来る条件を考えていくと、花芽分化まで2か月ほど前まで遡って考えなければいけません。その間の条件をしっかり見ていくためにデータは欠かせないと思います」

しっかりと農作物が出来上がるまでの過程を追い、その間の気温や湿度、日照量などをしっかり計測して予測していくことで、天候にも左右されにくい安定した農業生産が可能となります。

取れたデータはパソコンで確認、理想の生育環境となっているかグラフを分析する

松﨑「ほかにも、イチゴが1~2月に実が小さくなる傾向があると生産者の方から相談を受けて、データを見たことがあります。機器を取り付けて、環境モニタリングを行ってみると、こまめに換気をしていたことで冷気が入り、急に温度が下がったことで小さくなっていることが分かりました。イチゴの生育で急激に温度変化させない管理が大事だと気がついた事例です。

農政センターでも日照量や気温、湿度のデータを取っているので、そのデータと照らし合わせて何がいけないのかを判別しています。農作物を襲う病気に関しても、『この気象条件のなかで、これだけ気温と湿度が高い日が何日続くと、おそらくこの日辺りに病気が出る、こんな特徴が出たら防除した方がいい』といった予測が可能になりました」

千葉市経済農政局農政部農政センター 農業生産振興課 技術振興班技師 松﨑 奏氏

農家/アグリテック企業/技師・職員、膝を付き合わせて描く新しい千葉県の農業の在り方と農政センターの寄り添い方

千葉市がここまで取り組むのには、今後の在るべき姿を考えた側面もあると言う。

佐々木「千葉市は40代以下の農業従事者が全体の10.9%と千葉県平均の22%に比べ少ないのが実情です。高齢化による担い手の減少が進む中、新たな農業の担い手を増やす取り組みをしています。

現在では求められる担い手の姿も変わってきていると感じます。しっかり農政センターの機能を見直して、これからも農業に貢献していくこと、「人と技」を活かした都市農業の拠点として機能強化をしていくことが必要です。

リニューアルプランは、農家さんと一緒にワークショップや検討会を重ねて行い作成しました。プランでは具体的に「農業経営モデル」を作って解説しています。売上3000万円で家族経営でイチゴを育てる場合には、高設栽培でパイプハウスを主体に、収穫量は5t/10a、導入技術にはCO2施用機や環境センシングが必要と記して具体的なイメージが出来るようにしています。売上1億円の法人の農業経営モデルも作りました。

農業経営モデル、売上3000万円のイチゴ栽培のケース

生産者は単純に収穫量が増えただけでなく、売上が増えた、作業が省略化されて労働力あたりの収入が上がったなど、様々な経営感覚をお持ちです。」

佐々木「生産者は栽培に関する技術やノウハウを持っています。農政センターはデータの活用など違う側面からでプラスになるお手伝いができればと思っています」

農業は一朝一夕で改善が進む分野ではない。それだけに中長期的に生産者に寄り添うことで徐々に変わっていくはずだ。そんな未来の姿が楽しみである。


聞き手:上野智
株式会社まてい社代表取締役
1986年長野県生まれ。早稲田大学第二文学部卒業後、編集プロダクションに在籍し『週刊SPA!』や『ダイヤモンドZai』などでコンテンツを製作。 株式会社カカクコムを経て、株式会社ビズリーチ(現株式会社ビズヒント)のWEBメディアBizHintの企画や編集を担当。現在に至る。


(取材・TEXT:上野智 PHOTO:Inoue Syuhei  企画・編集:野島光太郎)

 

 
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