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Facebookの社名変更で脚光を浴びたメタバース、その原典となる『スノウ・クラッシュ』とは

         

昨年、IT業界を沸き立たせたニュースの一つがFacebook(現:Meta)の社名変更です。

2021年の開発者会議「Facebook Connect」でFacebook創設者であり、CEOのマーク・ザッカーバーグとReality Labs部門の責任者であるアンドリュー・ボスワースが今後、「Oculus VR」(仮想現実)と「Spark AR」(拡張現実)のプラットフォームに力を入れて行くことを発表しました。その中でキーワードとなったのが「メタバース(メタヴァース)」です。

Facebookはこの方針転換にあたり社名をメタバースに由来する「Meta(メタ)」に変更することを発表したのです。

今回の記事では、突然の社名変更により一気に注目を集めるようになった「メタバース」というキーワード、そしてその原典となった小説、『スノウ・クラッシュ』を紹介します。

そもそも、メタバースの意味って?

彼がいるのはコンピュータの作り出した宇宙であり、ゴーグルに描かれた画像とイヤフォンに送り込まれた音声によって出現する世界。専門用語では”メタヴァース”と呼ばれる、想像上の場所だ。
ニール・スティーヴンスン(日暮雅通 訳)『スノウ・クラッシュ〔新版〕上』p.50

メタヴァースは、インターネット上に存在する電子三次元(3D)仮想空間のことを指します。従って仮想現実(VR)や拡張現実(AR)などもメタバースに含まれる概念です。

メタバースという概念の原典となるのが、ニール・スティーヴンスンが1992年に書いた小説『スノウ・クラッシュ』です。

メタバースの原典となったSF小説『スノウ・クラッシュ』

メタヴァースではなんでもありだ。
ニール・スティーヴンスン(日暮雅通 訳)『スノウ・クラッシュ〔新版〕上』p.72

『スノウ・クラッシュ』の舞台は、政府の力が弱くなり、資本家によるフランチャイズ国家が国土を分割統治するようになったアメリカ。オンライン上に築かれた仮想世界「メタヴァース」にのめり込んだヒロ・プロタゴニストを主人公とするこの物語では、メタバースという世界観はもちろん、技術により、中央集権を脱した社会や、仮想空間が限りなく現実に近くなった結果、コードが街や人を形作り、法律として作用する、というギミックなど、現在と地続きになるコンセプトが詰め込まれています。

また、著者のニール・スティーヴンスンは、ポストサイバーパンクのSF作家であると同時に、技術関係のノンフィクション作家でもあり、最先端の技術から近未来を予測するかのような物語を『スノウ・クラッシュ』の他にも数多く発表しています。

マーク・ザッカーバーグやピーター・ティールをはじめ、数多くのIT起業家に影響を与えたニール・スティーヴンスンの作品

ニール・スティーヴンスンの作品は、これまで、多くのIT起業家に読まれ、影響を与えてきました。

例えば、脱政府的で大資本家や企業が支配する社会は2008年にビットコインを開発したサトシ・ナカモトが目指した非中央集権型の通貨や、PayPalの創業者、ピーター・ティールしが力を入れて投資を行なっている「海上国家プロジェクト」などにも彼の作品に通ずるところがあります。

その他にも、現在話題を集めているNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)への期待や、もちろん、今回のFacebookの発表も間違いなくニール・スティーヴンスン作品の影響を感じられるものです。

『スノウ・クラッシュ』の発表から30年が経過した今なお、さまざまなサービスの鍵を握るコンセプトを提供する今作は2022年1月に早川書房から新装版が刊行されました。

この新装版の観光にあたり、解説をスマートニュースのCEOの鈴木健が担当していることからも、今のIT業界からの注目度の高さを感じられます。

終わりに

『スノウ・クラッシュ』はハッカーの物語であるが、世界がいかにハックされうるかについて書かれた物語でもある。オープンエンドな未来の可能世界の一端を覗き見てしまった読者の一部が、起業家となって未来を書き換えようとしたとしても不思議ではない。そして書き換えられた未来によって、小説『スノウ・クラッシュ』の読まれ方もまたアップデートされ、新たな発見がなされる。書かれた作品と読者の存在は本質的に不可分なのだ。
ニール・スティーヴンスン(日暮雅通 訳)『スノウ・クラッシュ〔新版〕上』p.462「解説(鈴木健)」

Facebookは今後、10年間は、メタヴァース関連サービスが大きな利益を生むことはないだろう、と言及し、さらに先の未来に向けて、今回の取り組みを発表しています。

『スノウ・クラッシュ』が描き出したコンセプトは今後もわたしたちの生活のなかに根付いていきます。そうした中で今作が描いた仮想世界における脅威や未来はわたしたちの世界にまた新たな意味を与えるものになりえます。

これからのIT業界や、世界の動きを考える上で『スノウ・クラッシュ』は必読の作品と言えるのではないでしょうか?

【参考引用サイト、文献】
訪れるのはメタヴァースの時代か、それとも「メタの時代」なのか:フェイスブックの社名変更がもたらす仮想世界のこれから | WIRED.jp
メタヴァース(3D仮想空間) | 日本イーラーニングコンソシアム
米フェイスブック、社名を「メタ」に変更 企業ブランドの刷新図る - BBCニュース
・ニール・スティーヴンスン(日暮雅通 訳)『スノウ・クラッシュ〔新版〕上・ニール・スティーヴンスン(日暮雅通 訳)『スノウ・クラッシュ〔新版〕下

(大藤ヨシヲ)

 
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