2020年9月上旬、「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル2020年」がガートナージャパンにより発表されました。
世界最大規模のICT調査企業ガートナーが毎年発表するハイプサイクルは「黎明期」「流行期(「過度な期待」のピーク期)」「反動期(幻滅期)」「回復期(啓蒙活動期)」「安定期」の5段階で新技術の採用度をスコアリング・可視化します(詳しくはコチラ)。最新の同調査からわかる2020年の日本のデジタルトレンドがこの記事のテーマ。
その技術がなぜその段階にあるのかという視点で分析しつつ、日本のデジタルトレンドをご紹介します!
ガートナーのハイプサイクルは、最新技術は黎明期から一度過度な期待を集め、ピークを迎えたのちその反動で幻滅期を迎え、徐々に当たり前のものとなっていく……という流れで世の中に定着していくという考えのもと、新技術を段階ごとに並べています。
その点を踏まえ、早速2020年の日本におけるハイプ・サイクルの図をご覧ください。
引用元:ガートナー、「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2020年」を発表┃ガートナージャパン株式会社
2020年、ハイプサイクルの文字通り頂点に位置したのは、次世代通信規格“5G”でした。2020年3月に日本国内でも運用開始された同技術は4Gの100倍ともいわれる高速・大容量通信を背景にIoT、AI、動画コンテンツ、ハプティクスなどさまざまな分野を発展させることが期待されています。データのじかんでも5Gの可能性を語る多くの記事が昨年から今年にかけて掲載されました。
ガートナーの分析によると、COVID-19により5Gの開発・検証が遅れた代わりにリモート作業での活用への期待も高まったということです。総務省が発表した令和2年度版情報通信白書「5Gが促すデジタル変革と新たな日常の構築」において5Gは「令和時代における基盤」とまで表現されています。
その言葉の通り、ほかの最新技術の普及を進める“基盤”の役割を担う5G。これから幻滅期を迎えるものの、政府の後押しを受け予想以上に早く「安定期」にコマを進めるのではないでしょうか。
5Gに続いて注目したいのが、幻滅期を抜け出し啓発期へ突入しようとしている「Fintech」「デジタルヘルス」「ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)」の3技術です。
これらの技術への期待値が高まった背景にもやはりCOVID-19の影響があると考えられます。金融機関の実店舗に自由に出入りできなくなったことやコロナ不況による生活不安からFintechへの関心は高まりました。野村証券が運営するメディアでもコロナ禍の2020年3~4月に前年同月と比べファイナンスアプリの利用時間が85%伸びたことが報告されています。
コロナ禍がオンライン診療などIT技術を医療に活用するデジタルヘルスの普及に大きく影響したことはいうまでもありません。
ここで、2019年の日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクルを見てみましょう。
引用元:ガートナー、「日本におけるテクノロジのハイプ・サイクル:2019年」を発表 – デジタル・ビジネスを推進する上で特に注目すべきテクノロジと そのトレンドを明らかに┃ガートナージャパン株式会社
ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)はご覧の通りまだまだ幻滅期の坂を下る途中でした。ここから現在の位置にまで段階を進めたのには、市場成長と知識の普及により過剰な期待を抱かず適切に導入する企業が増えてきたことに加え、コロナ禍に伴う業務コスト削減やリモートワークの実現にRPAによる業務自動化が効果的だと考えられたという事情があるでしょう。
最後に2020年版から新たにハイプサイクルに加わったヒューマンオーグメンテーション(Human Augmentation)について解説いたします。
ヒューマンオーグメンテーションは東京大学大学院情報学環教授・ソニーコンピュータサイエンス研究所副所長の暦本純一氏が提唱するコンセプトで、日本語で「人間拡張」と訳されます。
「人間とテクノロジー・AIが一体化し、時間や空間の制約を超えて相互に能力を強化しあうIoA(Internet Of Abilities:能力のインターネット)」(※)という考えを根幹に持ち、ウェアラブルロボットによる身体機能の強化やAR/VRやAIによる知覚・認知能力の拡張が含まれます。
※引用元:Human Augmentationとは┃Human Augmentation
引用元:Human Augmentationとは┃Human Augmentation
一聴しただけで夢のある技術であり、これから「流行期」に進むことはほぼ間違いないでしょう。とはいえ黎明期ということはまだまだ本当の“実用化”には時間がかかる技術ということでもあります。
過度な期待の熱に浮かされ、先走った判断をしてしまわないようご注意を!
「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル2020年」は2020年7月時点の情報です。そのため、ご覧になったタイミングに合わせて自分の中でサイクルを進めて調整してみることをおすすめします。
ハイプサイクルのハイプは「誇大な宣伝」という意味を持ちます。長い目線で考えて大事なのはピークが去った後に技術が回復期・安定期に入ることができるかどうかでしょう。IoT・AIなど他技術の基盤となる“5Gがいつ日本で本格的に定着するのか”しっかり見守っていきたいですね。
【参考資料】 ・令和2年版情報通信白書「5Gが促すデジタル変革と新たな日常の構築」┃総務省 ・コロナショックで活用が進むファイナンスアプリ――日本のFinTech市場は5.6倍に┃EL BORDE ・5Gは「過度な期待」のピークに ガートナーハイプ・サイクル┃ITmediaビジネスONLiNE ・Human Augmentationとは┃Human Augmentation ・国立研究開発法人産業技術総合研究所 人間拡張研究センター
(宮田文机)
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