携帯電話、テレビのリモコン、飲料ペットボトルなど、あらゆる日用品に使用されているプラスチック。ほとんどの人が少なくとも1日に1度はなんらかのプラスチック製品に触れるのではないでしょうか?
ただ、その歴史は浸透具合に比べて意外に浅く、汎用化からはまだ60年ほどしか経っていません。ここではプラスチックの誕生から現在までの軌跡を紐解いてみたいと思います。
「プラスチック」という名称の語源はギリシャ語の「プラスティコス」に由来しています。これは「型に入れて作るもの」という意味で、様々な形状に加工しやすい素材の特性を表しています。
1835年、フランス人化学者・物理学者のルニョーが塩化ビニルとポリ塩化ビニルの粉末を作成しました。これが史上初のプラスチックと言われています。しかし商品化されたのは1869年、アメリカでのことでした。当時ビリヤードの玉は高価な象牙で作られていたのですが、より安価な素材を公募したところ、ジョン・ハイアットという印刷工が発明した「セルロイド」が採用されたのです。
セルロイドはセルロースを原料としており、加熱すると軟化して形状を変えやすいのが特徴です。加工のしやすさから玩具や映画のフィルムなど様々な製品に応用されましたが、発火性があるのが難点で、映画上映中にフィルムが燃え出すこともしばしばでした。映画「ニュー・シネマ・パラダイス」の中でその様子が描かれていますね。
20世紀に入ってすぐの1907年、ニューヨーク在住のベルギー人ベークランドが、石炭から炭化水素物質を抽出し、初の合成高分子プラスチックを発明しました。発明者の名前にちなんで「ベークライト」と名付けられたこの素材(フェノール樹脂)は、家電や自動車といった工業製品にも広く使用されました。
以降、この成功に触発されて様々な種類のプラスチックの開発が進みました。
以下は代表的な種類のプラスチックの発明年と用途例です。
発明年 | 名称 | 用途 |
1926年 | 可塑化ポリ塩化ビニル | 手袋、コード、フィルム |
1938年 | ポリスチレン | コンピューター、テレビの外枠 |
1938年 | ポリテトラルフオロエチレン | フライパンの表面のコーティング |
1939年 | ナイロン | 衣類 |
1941年 | ポリエチレンテレフタレート | 飲料用ペットボトル |
1951年 | 高密度ポリエチレン | バケツ、パイプ、漁網 |
1951年 | ポリプロピレン | 台所用品、車の部品 |
1954年 | 発泡スチレン | 包装 |
プラスチックの大量生産のきっかけは第二次世界大戦の勃発でした。軍事徴用により金属類が不足し、民間では代用品としてのプラスチックの需要が高まりました。
第二次世界大戦が終結した後も、安価さと利便性で金属に勝るプラスチックはそのまま日用品に深く浸透していくことになります。
全世界のプラスチックの生産量は年々増加しており、1975年に5000万トンだった生産量は2015年には4億トンに達しています。そして、その生産ペースは加速する一方です。
出典:OECD POLICY HIGHLIGHTS Improving Markets for Recycled Plastics – Trends , Prospects and Policy Responses」)
そのうち包装用プラスチックがもっとも大きい割合を占めており(1.5億トン)、そのほとんどがリサイクルされずに使い捨てされます。埋め立て廃棄されるプラスチックは土壌や海洋の汚染を引き起こし、燃やせば大気汚染や温暖化に影響を与えます。
こうした問題に対抗するべく、世界各地でリサイクルしやすいプラスチックや、生分解性を持つプラスチック、またプラスチックの代替素材の開発が進められています。利益を最大限に追求する企業は現時点ではコストの安い従来型のプラスチックに流れがちですが、環境負荷とコスト両方の低いプラスチック、または代替素材の開発によりトレンドが変わることが期待されています。
また、消費者の私たちも解決策の発見を待つだけでなく、日常生活の中で使い捨てプラスチックをなるべく避ける、リサイクルに気を配るなど、できることから始めてみるといいかもしれません。
まだ遅くない、そう信じて行動することだけが、明るい未来を見るための唯一の方法ではないでしょうか。プラスチックに関心が湧いた方は、マイクロプラスチック問題に関する他の記事もぜひ読んでみてください!
(佐藤ちひろ)
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