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IoTやAIなどの新しい技術が実用化されつつある今の時代は、「第4次産業革命」と呼ばれています。このような状況で、ものづくりの現場はどのように変わっていかなければならないのか、模索している企業も多いことでしょう。

しかし、「第4次産業革命」というものがこれまでの産業革命と何が違うのか、そしてこれからの産業がどのように変わっていくのか。これらのことを理解しなくては、現時点で何をすべきかが見えてきません。

そこで東京商工会議所では、会員にその示唆を提供するべく、様々なイベント・セミナーに有識者の声を聞く機会を設けています。今回はウイングアーク1st株式会社のConnected Industries エヴァンジェリストの大川真史氏を迎え、2018年2月27日に「スマートものづくり実践セミナー」を開催しました。前回は、第4次産業革命の大きなうねり、そしてそのうねりに向けての世界の巨大企業の取組みを解説しました。今回は、我々日本企業、そして数多くの中小企業はどこから取り組めはよいのか?どういった視座が必要か?について大川氏の登壇をレポートします。

低予算で手軽に導入できるデジタルツール

製造業において、デジタル化により行われていることの多くが「業務効率の向上」です。これは管理システムなどを従来のアナログの手法からデジタルに移行することで、生産性を上げようというもの。

しかし、実際の現場で起こっている小さな困りごと(QC、5Sなど)は、アナログの手法で解決されていることがほとんどです。そこで大川氏は「現場の小さな困りごとをデジタルツールで解決できないか」ということに着目。しかも、大がかりなシステムを導入するのではなく、手軽に購入できるものを使い、低予算で導入してみようと提案しています。

事例として紹介された主なものを紹介します。

Webiot 
温度・湿度・気圧センサーや加速度センサー、人感センサーなど、購入してすぐにデータ取得が開始される。料金は500円/月〜と低価格。

TeachmeBiz 
スマホで写真や動画を撮影し、コメントを付加することで簡単に現場で使えるマニュアルが作成できるツール。現場作業におけるサービス基盤となり得る。

プロジェクションピッキングシステム
画像認識とセンサーを使った、ピッキングのケアレスミス防止システム。視覚的にわかりやすくなっている。

SOFIXCAN Ω Eye
工作機械の操作盤にデジタルビデオカメラを取り付け、画像認識技術を用い機械の状態を解析・監視、およびデータの蓄積を実現。

これらのシステムは、専門的な高価な技術やシステムを使っているわけではなく、すでにあるモノや技術を組み合わせて作られたものがほとんど。製造業の現場で必要と判断し自作し、それを外販しているというケースも多く見受けられます。

使われている機器はほぼ市販で買えるものばかり。使われている技術も画像認識やAIといったもの。これらを組み合わせるだけで、このようなものが作れること。そしてそれを実際に現場で活用できるということが、第4次産業革命のほんとうの意義なのです。

欲しいツールがあったら個人が自分で作る時代

次のセクションでは、必要なものをユーザーが自分で作っている事例の紹介に。大川さんの2名の友人が作っているものを紹介します。

ひとつめが、山口洋介さんの作る「ファーマシストオンライン」。薬剤師である山口さんが、薬局業務を効率化するために、スマートスピーカー「Google Home」を使い、在庫確認や処方量の確認、他薬局の在庫確認などを行うというもの。これらを通常の薬局業務の合間に開発し、Facebookなどで要望のあった機能をその場で実装するといったことを行っているそうです。

ふたつめが、お茶の水内科を経営する五十嵐健祐さんの「お茶の水内科オンライン」。これは、Skypeを使った遠隔診療サービス。オンラインで診察の受付から診療、処方、配送までを行うというものです。新たに開発したものはなく、既存のテレビ電話ツールを使って実現しているというのがポイントです。

このほか、北海道の製造業「ワールド山内」の事例も紹介。自前、超格安でデジタルファクトリーを構築することで、VE/VA提案を行い、発注者と対等な立場を確立しています。

そのほか、古いスマホを使っての機械管理システムや三色灯の監視システムなどを開発している製造業を紹介。実際に外販をしていることもあり、このような業務効率化ツールを新しい事業にしている製造業もあるという事例でした。

ものづくりで使える便利なツール

実際に自分でものづくりをしようと思ったときに、データをアップロードするもの、データ同士をつなげるもの、分析するもの、可視化するものが必要になります。そこで、大川氏オススメのツールの紹介がありました。いくつかご紹介します。

●データを上げる:Nefry
はんだ付け不要で、簡単にインターネットサービスをハードウェアを接続できるモジュールです。Arduino互換となっており、80種類以上のセンサーやモジュールが用意されています。価格はベースとなる「Nefry BT」が5,378円(税込)、センサーやモジュールのほとんどが1,000円以下となっており、手軽にIoT対応機器が作成できます。

●データをつなげる・ためる:IFTTT
「if」「this」「then」「that」の略。「このとき、これが発生したら、こうなる」というプログラミングを、誰でも行えるサービスです。たとえば、「6時になったらTwitterにメッセージを送信する」といったことを自動化できます。エアコンや活動量計など一部の家電製品などとも連携することが可能です。

●データを分析する:Jupyter Notebook
AIや機械学習で使うライブラリが豊富なプログラム言語「Python」を使うためのツール。プログラミングにあまり詳しくなくても、非常に少ない行程数、行数でプログラミングができます。

●データを見せる:Ambient
リアルタイムで、Nefryなどから取得したデータをグラフ化して表示してくれるツールです。ちょっとしたプログラミングの知識があれば、グラフのカスタマイズをすることで、取得したデータを見やすく表示させることが可能です。

大がかりな設備やエンジニアがいなくても、これらのツールがあれば、データの取得から可視化までを自分たちで行うことが可能となります。

デジタルツールの開発は「UXデザイナー」の存在がカギ

最後は、どのようにしてデジタルツールを開発するのかという話です。大川氏曰く「ユーザーが使い続けるツールを作るべき」とのことですが、実際にそのようなツールを作ることは難しいことです。

ユーザーにとってよいツールというものは、ユーザーに実際に使ってもらい、フィードバックをもらい、それを反映してさらにプロトタイピングをしていくことが大切。つまり、「失敗と修正」を多く繰り返すことが重要なのです。

「やるべきことは簡単で、1日でも早くユーザーにダメと言われる経験をしたほうが、よいツールに近づきます。このような開発をアジャイル開発と呼びます」(大川氏)

アジャイル開発においては「利用開始=改善のスタート」。従来のように、メーカーが何度も試作を繰り返して満を持して世に出すというやり方ではなく、未完成でもいち早くユーザーに使ってもらい、そのフィードバックから修正をするということを繰り返して、よりよいツールに近づけていくということが、一番重要なことになります。

このようなアジャイル開発に関しては、ユーザーを中心に、ディレクター、エンジニアのほかに、「UXデザイナー」という人材が必要になるとのこと。UXとは「User Experience」(経験)のことで、ユーザー体験を公平な目で判断できる人材の必要性が高まります。すでに北欧や深センなどではUXデザイナーが多数活躍しているそうですが、日本ではまだまだ少ないのが現状です。

では、これから何から始めればいいのか。大川氏は以下のようにレベルごとにやるべきことを挙げています。

●レベル1 データの収集・蓄積
●レベル2 データによる分析・予測
●レベル3 データによる制御・最適化

まだデジタル化に関して何も行っていないという場合は、まずはデータの収集からスタート。この際、決していきなりレベル2や3のことをするのではなく、順番に行っていくことが重要なようです。
2時間に及んだセミナーの最後は、東京商工会議所が実施した「ものづくり企業の現状・課題に関する調査」の一部について紹介がありました。23区内の1,670社の製造業から回答いただいたこのアンケートでは、デジタルデータの利活用や、データ導入時に期待すること、実際の効果などについて、現場の生の声が反映されています。こちらから閲覧できるので、参考にしてください。

まずはデジタルデータの収集・可視化から始めよう

IoTやAIというキーワードを耳にする機会が多くなっている昨今。デジタルデータの利活用というのは時代の流れにおいて重要なことだというのはなんとなくわかっているけれど、現場レベルではどのようなことをしていいのかわからないと考えている製造業の方は多いはず。

今回のセミナーでは、デジタルデータを活用するために大がかりな設備投資や人材登用は不要で、とにかく現在現場で起きていることのデータを収集しそれを可視化することから始めることで、いろいろな面の変化が期待できるということがわかりました。

今後20年、30年というスパンで見たとき、ただ技術力をアップして製品を作っているだけでは、世界のものづくりから日本が後退してしまうのは明らか。製造業自らがプラットフォーマーとなり、ユーザーに価値のある体験を提供しなければ、生き残れないのではないでしょうか。

そのためにも、まずはデジタルデータの収集・可視化を、今回大川氏が紹介したツールなどを使って始めてみましょう。期待している以上の効果が得られるかもしれません。

取材・TEXT・PHOTO:三浦一紀

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