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新しい事業を企画・立案する時に必要なものは何か?アイデアと実行プラン、そして裏づけや検証のためのデータだ。 データは、アイデアやビジネスプランを生み出す源泉でもある。IoT(モノのインターネット)社会が加速し、モバイル機器や各種デバイスからデータが生まれ、オープンデータによってさまざまな統計データが入手できる現在、「データを起点とした事業開発」の可能性もあるとウイングアーク1stの中土井利行氏は語る。
「データを用いて新規事業のアイデアを作りたい」――そう考える事業開発担当者や、ビジネスの企画に携わる人は多いのではないだろうか?
ビッグデータ、AI、IoTなどここ最近のテクノロジーとビジネスの潮流の根底には、データの存在が無視できない。
もちろん以前から、セールスやマーケティングには販売や売上のデータが必要とされたし、経営計画の立案にも、データは不可欠だった。
しかし、これまではどちらかと言えば、社内に存在するデータが対象であり、外部のデータを活用とすると、公的機関の発行する統計データか、専門機関による調査データに頼る以外なかった。
しかし、そうした状況は変わりつつある。ウイングアーク1stの中土井氏は、「社内データだけに頼っていては、自分たちが置かれている状況を見誤り、本来の目的を達成できない危険性があります」と語る。特に業務の抜本的改革や新規事業の立ち上げ時には、自社だけではなく、外部で提供されるデータを参照する必要があることに多くの企業が気づいたという。
外部のデータを活用するといった場合、まず思いつくのが社会的に公開されている「オープンデータ」である。公共機関から出ているオープンデータを用いて、サービスやアプリケーションを作るハッカソンなどの活動も盛んだ。
もうひとつは、事業者が販売するデータがある。こうした「自社が保有するデータ」、「社会公共的に公開されたデータ」、「関連する事業者によって公開・販売されているデータ」をどのように組み合わせるか、事業開発者にとっては、そのスキルが問われるところとなる。
まずは自社が新しい価値を創出する領域、あるいは従来の業務を効率化する領域を見定め、「仮説」をたて、検証し、実行していくというプロセスが有効だ。こうした仮説検証のプロセスの中に、第三者データの活用を取り入れることができる。
「たとえば、ある地域の店舗の販売が芳しくなく、改善したい」「ある仮説に基づいた新規事業を展開する」といった課題に対して、まずはその仮説の検証に役立つデータを調達するという方法だ。
参考記事:「1次データ」「2次データ」「3次データ」それぞれの違いと役割とは?
こうした第三者データによる知見の例を、中土井氏はいくつか紹介した。
「気づきのヒントを得やすいのは「自社データと第三者データの連携」です。たとえば売上高の前年度比較を自社データで行うのと同時に、市場における自社のシェア、競合のシェアを把握すれば、自社のポジションの客観的な評価が可能になります。そこから自分たちが成すべき行動を明確にすることも、大きな目的の一つになります」(中土井氏)
中土井氏は、自社データと第三者データを掛け合わせることで、意外なインサイトが得られるという。
たとえば、多店舗を展開している小売チェーンには、新規店舗開発の部隊がある。そこでできた店舗に対する責任は、エリアマネージャーなど事業部門の方に移ってしまい、店舗開発をした後は、外部環境の調査が行われることは稀だった。
第三者データによって、刻一刻と周辺を取り巻く人口の状況や、競合の状況が変わっている状況を把握しながらの店舗の計画を随時チェックすることができる。
ECにおいても同じだ。どこのエリアにターゲット顧客がどれくらい住んでいるかの情報は、地域の世帯分析のデータで得ることができる。これとオンラインによるマーケティングを組み合わせ、ECと実店舗を融合による相互送客など、オムニチャネルの戦略が可能になる。
「現在のように不確定要素が多い、過去の経験が役に立たない時代に、これまでのように経験と勘だけに頼っていたのでは、将来の方向性を見失ってしまうのです。その方向性をある程度指し示してくれているものの一つが第三者データなのです」(中土井氏)
事業開発は、様々な切り口で行われていく。たとえば、自社のリソースから判断して、自分たちの有しているテクノロジー、顧客、販売チャネルに合わせた応用で事業に発展させていくものがある。一方で、特定の消費者のニーズをつかんでおり、それに対するビジネスを拡大してくなど、様々な新規事業の種、きっかけが存在する。
その一つとして、外的環境の変化によってビジネスチャンスが生まれるということが、往々にして存在する。そのため、ある市場のメインプレイヤーが、変革した新規プレイヤーに負けてしまった事例が示すように、世の中が変わるときにはチャンスが芽生える。そこでは外的環境の研究が、有効な一つの切り口になる。
具体例の一つが人口減少時代の戦略だ。昨年末に出た2015年の国勢調査の速報値で、同調査で初めて日本の人口が減った。
首都圏においてはまだ人口が増えているのだが、市町村レベルでは減少しており、郊外のニュータウンでは人口の減少と高齢化の傾向があるものの、湾岸の新しいタワーマンションには多くの人が集まってきているという事実がある。もちろん若い人や外国人の購入もあるが、子育てが終わった世代が郊外から移り住んでいるケースも顕著にある。
ここから、従来の郊外の居住者と通勤者を対象とした電鉄会社のビジネスモデルとは異なる、新たな都市生活者に向けたサービスは何かというテーマも生まれる。
インバウンドも注目すべきデータだ。2015年の訪日外国人は1,973万人だった。政府は2020年までに2,000万人を目標としていたが、4,000万人に上方修正した。当然、そこにビジネスチャンスが転がっている。
多くの人はテレビやインターネットなど、メディアで世の中の状況を掴んでいるケースが多い。一方報道する側は、どうしてもニュース性の高いものを取り上げるために情報にバイアスがかかる傾向がある。データと見比べると、実態とのかい離が散見される。
例えば2月の春節、桜の季節、国慶節には中国人が大挙して来日するというニュースが報道では流布されるが、日本政府が発表しているデータだけを見ても、実際に多いのは7、8月という事実がある。
月別の訪日外客数については、国が出している空港のイミグレーションについてのものがある。一方、入国したあとの行動について、国はなかなか捕捉しづらい。そこで色々な事業者が外国人の動向をつかもうと努力しているのだが、その例では、通信端末から得られるデータが有効だ。
多くの訪日外国人が使うモバイルアプリケーションは、GPSの機能をオンにすることで、利用者の移動経路、分布状況をつぶさに把握することができる。個人との紐づけはなく匿名化されているので、こうした情報は第三者データとして活用できるのだ。
たとえばナイトレイという企業が、ソーシャルネットワークの投稿された位置情報を解析したデータを提供している。
現在、こうしたビジネスのメインプレイヤーとなっているNTTドコモとナビタイムはデータを売る専業ではなかったが、データが膨大に蓄積されたことで、データそのものに価値が生まれ事業創出に結びついた。一方ナイトレイは、最初からデータの提供を狙ったベンチャーである。
法制度という観点も重要な外的ファクターになる。電力の自由化がその例だ。電力の事業に新規参入する企業はデータ活用に積極的だ。ターゲットになるのは、戸建て居住で、電力会社を自ら選ぶという感度の高い人々がどの辺に住んでいるのかを知るため、各社が戸建住宅データによるエリアマーケティングを真剣におこなっている。
各社のサービスは大差ない領域となっており、実際、切り換えた人は少ない。日本人には、変化をあまり望まない特性がある。積極的だが不快でないアプローチを「それがお得」というエビデンスと共に受けないと、自ら行動しようとしない。
「プリウスがアメリカで火がついたきっかけというのは、ハリウッドのセレブスターだといわれています。自分について、好感度が高い、情報の発信者、市場のリーダーだと思われたいセグメントの方々は、比較的、新しいものに対して抵抗感がありません。マーケットに登場した初めてのものを身に付けて意見をいいたいとか、そういうセグメントが必ず存在するのです」(中土井氏)
こうした変化による利益は、先行して知れば先んじて得られる。新規事業遂行では極めて重要なファクターだ。そのターゲットにアプローチするためにも、第三者データは有効だと中土井氏は言う。
平成27年国勢調査 人口速報集計平成27年に調査実施された国勢調査の人口速報集計値。都道府県・市区町村ごとの人口、世帯数、人口増減率、世帯増減率を確認することが可能。 |
訪日外客数の動向 国籍/月別訪日外客数日本政府観光局(JNTO)が発表している訪日外国人数データ。国籍別・月別の外国人の訪日状況。インバウンド需要を図る基礎データとして広く利用することが可能。 |
日本の地域別将来推計人口 全国版国立社会保障・人口問題研究所が調査公表している日本の人口増減を推計したデータ。2010年の国勢調査を基に2040年までの30年間(5年ごと)について全国市区町村単位(福島県を除く)で人口の増減を確認できる。人口増減によって変動する長期需要予測等にも利用可能。 |
気象履歴情報 全国版気象庁の公開している気象データをBIツール上での分析用途用に加工したデータを可視化。全国約150か所の気象観測所の降水量・気温・日照時間などの観測データを2012年から現在まで1時間単位で確認できる。気象条件と売上や来場客数の相関把握にも利用可能。 |
宿泊旅行統計調査(外国人)国籍/月別宿泊者数 全国版 観光庁が全国のホテル、旅館、簡易宿所等を対象に調査している宿泊旅行統計調査から各月の外国人延べ宿泊者数の国籍別内訳をデータコンテンツ提供。都道府県別、年月別にどのくらい外国人宿泊者がいたのか把握することができる。 |
第三者データそのものは、膨大に存在する。ウイングアーク1stは、新たなビジネスを生み出す「第三者データ」を厳選し、提供するサービス「3rd Party Data Gallery」(以下3PDG)を開発した。3PDGでは、人口・世帯に関する統計データ。ライフスタイル、医療・介護に関するデータなど厳選した第三者データが豊富にラインナップされている。3PDGでは、その中で最も信頼に足るモノをセレクトしており、50種を超えるデータがラインナップされている。
ウイングアーク1stは、BIツールでデータの扱いについて熟知しているので、そのノウハウで全てのデータを加工処理している。データの特徴や癖、生成の過程も含めて理解して作り、自社のBIで培った情報をミックスし、最初の定義が出来上がっている。
「統一したルールで作り上げたデータなので、気持ちよく使うことができます。ユーザーにとっては嬉しい、イノベーションを生み出せる要因だと思っています。それと同時に、データ提供事業者にとってもすぐに使える形でデータがユーザーに提供されるのは、今までデータ活用ができなかった顧客層へリーチする、データ流通を促進する取り組みとして評価されています」(中土井氏)
さらに最近、3PDG の第三者データを最も気軽に利用できるコンテンツサービス、On Demandの提供を開始した。エンドユーザーは、データやツールが欲しいのではなく、結果を求めている。それをかなえるため、必要な環境はブラウザのみで、GISやBIなど、データを利用するシステムを用意する必要はない。翻ってデータ提供事業者としても文字・数字の羅列のデータから一目でインサイトを得られるコンテンツとして自分たちのデータが利用されることは、その価値を直感的に感じてもらう機会となる。
第三者データは、単体で利用してもなかなか効果が得られにくい。複数のデータをうまくミックスして判断することが求められる。しかし、第三者データだけでの分析では、競合各社の結果がすべて同じになってしまう。自社も変わり、マーケットも変わっている中で、行動の優先順位を決めていくことがポイントとなる。そこで中土井氏は「第三者データと自社データの組み合わせが何より重要」と再度強調する。
事業創出のためのツールとして、「第三者データ」活用を検討してみてはいかがだろうか。
[著] BizZine編集部
翔泳社の運営するビジネスメディア:Biz/Zine(ビズジン)は企業の事業開発、イノベーション、スタートアップ、次世代テクノロジーに関する情報を提供するWebメディアです。本記事は「Biz/Zine」に掲載された「新時代の鉱脈=「第三者データ」を使った事業の起こし方」を許可を得て掲載しています。
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